最新記事

中国

中国恒大・債務危機の着地点──背景には優良小学入学にさえ不動産証明要求などの社会問題

2021年9月22日(水)23時26分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

8月11日のコラム<中国金メダル38でもなお「発展途上国」が鮮明に>で書いたように、中国の一般家庭の「高学歴への渇望」は尋常ではない。

恒大問題を考察するときには、こういった中国の根本的な社会背景を直視しなければ真相解明には至らない。

中間層が不動産購入に狂奔する理由「その2」:一人っ子政策がもたらした「剰男」

長いこと実施してきた「一人っ子政策」によって、男尊女卑の強い農村では、お腹の子が女の子だと分かると早い時期に堕胎し、男の子を生んだ母親(使いたくない言葉だが「農家の嫁」)を高く評価する傾向にあった。そのようなことが累積して、2020年11月1日に始まった第7回国勢調査の結果では、男性の方が女性より「3490万人」多いというデータが出ている。

そのうちの結婚適齢期の男性が結婚相手を見つけることができないという現状にある。

中国語では「結婚できない男性」を「売れ残った男性」とみなして「剰男(センナン)」と呼ぶことが多い。本人に結婚願望がなければ、この範疇には入らないだろうが、「独身男性」は肩身が狭いという傾向にある。

同様に「結婚できない女性」を「売れ残った女性」とみなして「剰女(センニュイ)」と称したりしたが、今は「剰女」は少なくなってきた。そもそも女性にも結婚願望が強くない現象があるので微妙ではあるが、結婚願望のある男性や、独身男性を抱える父母は気が気ではない。

結婚してみようかという女性の側は、「結婚したければ『家あり、車あり、高学歴』という条件を揃えなさいよ!」と強気だ。「剰男」の両親あるいは「剰男」自身が、結婚のために、なけなしのお金を搔き集めてマンションを購入するという状況は、中国の庶民の間でよく見られる日常風景なのである。

習近平が恐れるのは中間層の社会動乱:「6個の財布」を使い果たして

中国には「6個の財布」という言葉がある。一人っ子の両親と、その両親のそれぞれの両親の6人を合わせた「財布」を全て合わせるという意味で、「一つのマンションを購入する」ときには、この「6個の財布」を必要とする。車の価格はマンションとは比較にならないほど安いので、世代を超えた、なけなしの財産である「6個の財布」はほとんどの場合、「不動産購入」に充てられている。

習近平が最も恐れるのは、この「6個の財布」を搔き集めて不動産を購入した中間層の反乱だ。これを抑えなければ社会不安をもたらして、非常にまずい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国4月鉱工業生産、予想以上に加速 小売売上高は減

ワールド

訂正-ポーランドのトゥスク首相脅迫か、Xに投稿 当

ビジネス

午前の日経平均は反落、前日の反動や米株安で

ビジネス

中国新築住宅価格、4月は前月比-0.6% 9年超ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中