最新記事

礼拝所

ドイツで3つの宗教の合同礼拝所が着工、平和と対話を促す施設目指す

2021年6月7日(月)17時00分
松丸さとみ

ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の世界初の合同礼拝所「ハウス・オブ・ワン」の起工式が行われた YouTube-House of One

<5月27日、ベルリンで、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教がひとつ屋根の下に集う世界初の合同礼拝所「ハウス・オブ・ワン」の起工式が行われた>

3つの宗教が平和的に共存する礼拝所

ユダヤ教、キリスト教、イスラム教がひとつ屋根の下に集う世界初の合同礼拝所「ハウス・オブ・ワン」(ひとつの家)が5月27日、ドイツのベルリンで起工式を行った。2011年に始まったこのプロジェクトは10年のときを経て、着工に漕ぎつけたことになる。

ハウス・オブ・ワンによると、1989年に「言葉の力および非暴力な抵抗の力によって"鉄のカーテン"が崩壊した場所」であるベルリンで、この礼拝所は、各宗教が多様性の価値を認め、平和的に共に過ごす場所となる。これまで「宗教の名の下で行われてきたあらゆる残虐行為とは対照的な、平和的共存のモデル」になるとしている。

施設内には、シナゴーグ、教会、モスクが別々に作られ、中央には共有スペースが設けられる。このスペースは、各宗教の信者や一般の人たちがそれぞれの宗教やお互いについて一緒に学べる空間だ。この3つの宗教以外の信者や、宗教を信じていない人にも開放される。

ハウス・オブ・ワン礼拝所の竣工までに、4年かかると見られている。建築費は合計で4700万ユーロ(約63億円)。そのうちドイツ政府が2000万ユーロ(約27億円)、ベルリン州政府が1000万ユーロ(約13億円)をそれぞれ提供し、個人からの寄付で900万ユーロ(約12億円)が集まった。残りの800万ユーロ(約10億円)は、引き続き寄付を求めていく予定だ。

歴史的な場所に世界初の施設

ガーディアン紙によると、ハウス・オブ・ワンが建設される場所は、ライプツィガー通りに位置する、聖ペテロ教会の跡地。同教会は13世紀に建てられ、ベルリン最古の教会だったと言われているが、第2次世界大戦で激しく損傷。東ドイツが共産主義であった間に解体された。

ハウス・オブ・ワンは、この土地がこれまで科学的に調査されたことがなかったことから、起工式の前に考古学者が調査を行うとしていた。発掘調査の第1フェーズでは、聖ペテロ教会の墓地だった部分から、4000体の遺骨が発掘されている。施設内には、この場所で発掘された遺跡が飾られるほか、ベルリンの歴史やベルリンにおける3つの宗教の歴史が展示される予定だ。

プロジェクトの発起人は、プロテスタントのグレゴール・ホーベルク牧師、イスラム教指導者(イマーム)のカディル・サンチ師、ユダヤ教指導者(ラビ)のトビア・ベン-チョリン師の3人。もともとはホーベルク牧師が、ベルリン最古の教会があった場所に、精神的な空間となるものを作りたいと考えたのがきっかけだったという。このアイデアをもとに、ユダヤ教とイスラム教の指導者らも賛同し、3つの宗教のコミュニティが草の根活動を続けて実を結んだ。

インディペンデント紙は2014年、このプロジェクトが「ベルリンの奇跡」と呼ばれていると報じていた。サンチ師は当時、さまざまな宗教や文化の間での意識的な対話を促進するようなプロジェクトにしたいと述べ、「子どもたちには、多様性が普通である未来を持ってもらいたい」と話していた。

またベン-チョリン師は、ベルリンはかつて、ユダヤ人の根絶が計画された都市であると指摘。そこに世界で初めて3つの宗教の礼拝所が建設されることから、ベルリンは「傷と奇跡の都市」だと表現した。

ガーディアンによると、ドイツ福音主義教会(EKD)常議員会のハインリヒ・ベッドフォード=ストローム議長はドイツ・メディアに対し、反ユダヤ主義やイスラム恐怖症が増加している今の時代に、ハウス・オブ・ワンは重要なメッセージを発信していると述べたという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

4月工作機械受注は前年比11.6%減、16カ月連続

ビジネス

楽天Gの1─3月期、純損失423億円 携帯事業の赤

ワールド

プーチン大統領、16-17日に訪中 習主席と会談へ

ビジネス

独CPI、4月改定は前年比+2.4% 速報と変わら
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中