最新記事

米中関係

台湾・尖閣・南シナ海「トラブルメーカー」中国の野望をどう止める

COUNTERING CHINA IN ASIA

2021年3月24日(水)07時20分
ジャック・デッチ(フォーリン・ポリシー誌記者)

失われた米国の競争優位

日本の前にハワイの米インド太平洋軍司令部を訪問したオースティンに、デービッドソンは地域における米国のプレゼンスの歴史を説明する「マップ・ブリーフィング」を行った。

ベトナム戦争中は3万人以上の空軍および陸上部隊がタイに駐留し、台湾には2万5000人以上、フィリピンには数千人が展開していた。

アメリカはアジアで、冷戦時代のような大規模な地上軍の展開を再現しようとはしていない。しかし、西太平洋は中国が地理的に近接している強みを持つ。アメリカは、自国のはるか前方の西太平洋で、米軍を柔軟に運用する方法を模索している。

「基地を増やせとは言っていない」と、初めの国防総省高官は言う。「戦闘能力の一部を、一時的な措置で再配置する必要がある」

米海兵隊は既に、オーストラリアのダーウィンで巡回配備を行っている。インドとはアンダマン・ニコバル諸島で物資の事前配置や航空機への給油を行う戦術的協定を結んでおり、アメリカの同盟国であるフィリピンには軍用機や艦船が自由に出入りできる。

米軍はシンガポールにも沿岸戦闘艦とP8哨戒機を巡回配備しており、パプアニューギニアではオーストラリアと共同基地の建設を進めている。

元米中央軍司令官でもあるオースティンは自らの経験をもとに、中国の脅威について公の場で語ってきた。かつては記者団に次のように話している。

「過去20年、私たちは中東に注力してきたし、それは適切なことだ。その間に中国は、私たちの能力に近づこうと努力してきた......私たちの競争上の優位はむしばまれた」

もっとも、戦争をするかどうかという話にはならないだろうと、専門家はみる。むしろ中国は自分たちの軍事力増強を利用して、米国防総省の戦略立案コストを引き上げているのかもしれない。

「中国が戦争を望んでいるとは思わない。私たちに彼らと戦いたくないと思わせるのに十分な規模の脅威を与え、戦争のコストが割に合わないと判断せざるを得ない状況に追い込みたいのだろう」と、シュガートは言う。

「空母1隻分の乗組員を失えば、イラクで10年近くの間に失った同じくらいの人数を、1日で失うことになる」

From Foreign Policy Magazine

(3月23日発売の本誌「中国に勝てるのか」特集では、バイデン政権の対中政策を深掘り。ブリンケンはトランプの対中姿勢を「正しかった」と明言したが、新政権の支持層は関係改善を期待している。果たしてアメリカは中国の野望をどう止めるのか)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中