最新記事

モロッコ

リベンジポルノの被害女性が「婚外交渉罪」に モロッコ刑法の理不尽

Jailing of Revenge Porn Victim in Morocco Sparks Calls to Change Sex Laws

2021年2月10日(水)18時00分
ダニヤ・ハジャジ

女性に対する暴力に抗議するデモ(2012年12月8日、モロッコのラバト市) REUTERS

<イスラムのフェミニストや女性議員を巻き込む社会運動に火がついた>

モロッコのソーシャルメディア上では、婚外交渉を犯罪と定めた法律の廃止を目指す運動が展開されている。きっかけは、「リベンジポルノ」の被害者の女性が有罪判決を受けて収監されたことだった。

モロッコの報道でハナーと呼ばれているこの女性は、男性との性行為を撮影した動画をネットで公開されたのち、1月にモロッコ北部の街、テトゥアンで逮捕された。2人の子どもを持つシングルマザーである彼女は、禁錮1カ月と罰金500ディルハム(約5800円)の有罪判決を受けた。

ハナーは、イスラム教徒が大多数を占めるモロッコの刑法の2つの条文に反したとして告訴された。1つは、「公の場での慎みを踏みにじる行為」を禁じる第483条、もう1つは、婚外交渉を禁じる第490条だ。

ハナーの釈放を求める運動を行っている社会活動家らは、この動画はハナーの知らないところで、同意なく撮影・拡散されたと抗議している。

流出した動画に映っている女性の相手は、警察が指名手配している男だと地元メディアは伝えた。動画を公開した人物の身元はいまだ不明で、この人物が法的責任を問われるとしても、それがどんなものになるかはわかっていない。

モロッコのインフルエンサー取り込む

モロッコでは、ハナーの逮捕および実刑判決に怒りを覚えたソーシャルメディア・ユーザー数百人が、刑法第490条の廃止を求めて声を上げている。この条文は、結婚相手以外と性交渉を持った者に1カ月から1年の禁錮刑を科すと定めている。モロッコのインスタグラムでは、この運動を象徴する赤色をバックにした画像があふれており、ツイッターでは「#STOP490」(490条を廃止せよ)というハッシュタグがトレンド入りした。

この運動を立ち上げたのは、複数の受賞歴がある作家のレイラ・スリマニと映画監督のソニア・テラブが創設した、社会改革を促す運動「モロッカン・アウトローズ」だとされている。このグループは、刑法第490条を批判する画像やミーム、ソーシャルメディア向けのフィルターを拡散し、モロッコの若者やインフルエンサーを運動に取り込んでいる。

モロッコ人を母に、ポルトガル人を父に持つ女優のサラ・ペルルは、この条文を「時代錯誤」と呼び、「われわれが好むと好まざるとに関わらず、モロッコ人たちは婚外交渉をしている」と指摘した。

「この話は極めて不快だ」と、ペルルはインスタグラムで書いている。「この法律が廃止され、モロッコ人が自分の心身に関して、望むことを何でも自由にできる状況が来ることを望んでいる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:米の新たな対中関税、メキシコやベトナム経由で

ビジネス

ブラックストーン連合、LSEG全保有株売却 20億

ビジネス

IEA、今年の石油需要伸び予測を下方修正 OPEC

ビジネス

訂正(14日配信記事・発表者側の申し出)シャープ、
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中