最新記事

インド

RCEP加盟を拒否したインドの過ち──モディ政権が陥った保護主義の罠

Why India Refused to Join RCEP

2020年12月5日(土)14時20分
スルパ・グプタ(米メアリー・ワシントン大学教授)、スミト・ガングリー(米インディアナ大学教授)

国内産業の保護を優先するモディはRCEPのメリットを認識しながらも撤退を決断した ADNAN ABIDI-REUTERS

<アジアとオセアニア15カ国が参加する巨大経済圏に背を向けたことで多くのチャンスを逃しかねない>

グローバル経済の約3割を占める巨大経済圏の誕生だ。11月15日、ASEAN(東南アジア諸国連合)加盟10カ国と、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの合わせて15カ国が、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に署名した。

しかし、そこにはアジアの経済大国の1つが欠けていた。インドである。長期にわたる交渉の末、インド政府はRCEPへの参加を拒否した。

RCEPが発効すれば、加盟国間の商品やサービスに対する関税の撤廃や引き下げが行われる。投資と競争に関する規定が設けられ、知的財産の保護も確実なものになる。

政治・経済の専門家は、インドがRCEPに参加すれば恩恵を被ると主張してきた。安価で高品質の製品が手に入るという国内消費者にとってのメリットに加え、インド企業がグローバルなバリューチェーン(価値連鎖)の一部となり、外国からの投資を引き付けられるという利点もある。

インドが過去に参加した自由貿易協定(FTA)は、タイやカンボジア、ベトナム、マレーシア、フィリピンへの輸出の増加につながった。日本などから製品を安く輸入できるようになり、輸入量は増加し、生産能力が向上した。

さらに専門家らは、RCEPに参加すれば雇用が創出され、経済成長を維持できると主張した。政治的な利点もある。RCEPに加盟すれば、将来的に合意形成に参加するチャンスを得られるはずだった。撤退によってインドは孤立し、貿易に関する将来の制度構築への関与も限られる。

メリットがあるはずなのにインドが加盟を拒否するという事態は、全く予想外というわけではなかった。インドは長年にわたり輸入に代わる産業振興戦略の一環として、極めて保護主義的な経済政策を取ってきたからだ。

あくまで自立を目指す

インドは1991年の金融危機の余波を受けて、初めて一連の関税障壁を解体する方向に動いた。以来30年間にインドの世界経済への統合は劇的に進んだが、貿易交渉におけるインド政府の姿勢はほとんど保護主義のままだった。

現在のナレンドラ・モディ首相の下では、この保護主義的な傾向がさらに際立っている。モディは就任から間もないうちに、「メーク・イン・インディア(インドでものづくりを)」戦略を推進し始めた。新型コロナウイルスの感染拡大がインド経済を直撃しつつあるときには、国内産業を後押しする経済自立策「自立したインド」を発表した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:対中関税、貿易戦争につながらず 米中は冷めた

ワールド

中ロ首脳会談、包括的戦略パートナーシップ深化の共同

ビジネス

東芝、26年度営業利益率10%へ 最大4000人の

ビジネス

ホンダ、電動化とソフトに10兆円投資 30年までに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 8

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 9

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中