最新記事

ボイジャー

アンテナ老朽化、約8ヶ月ぶりにボイジャー2号に向けてコマンド送信に成功した

2020年11月9日(月)13時30分
松岡由希子

キャンベラ深宇宙通信施設の直径70メートルの大型パラボラアンテナ Credits: CSIRO

<太陽系を取り囲む「太陽圏」を脱しているボイジャー2号。2020年3月上旬から、地球との交信が中断していたが、10月30日、約8ヶ月ぶりに地球からボイジャー2号に向けて指令を送ることに成功した......>

NASA(アメリカ航空宇宙局)の無人宇宙探査機「ボイジャー2号」は、1977年8月に打ち上げられて以来、木星、土星、天王星、海王星での探査を経て、2018年11月、太陽系を取り囲む「太陽圏」を脱し、現在、地球から約188億キロメートルの位置で航行している。

2020年3月上旬から、地球との交信が中断し、ボイジャーは地球からのコマンドを受信できない状態が続いていたが、10月30日、約8ヶ月ぶりに地球からボイジャー2号に向けて指令を送ることに成功した。

matuoka220565.jpeg

「太陽圏」を脱したボイジャー
NASA/JPL-Caltech

●参考記事
ボイジャー2号が太陽系外の星間物質の電子密度の上昇を観測

ボイジャー2号との交信無線通信機は47年間交換されず老朽化していた

NASAのジェット推進研究所(JPL)では、米カリフォルニア州のコールドストーン深宇宙通信施設(GDSCC)、スペインのマドリード深宇宙通信施設(MDSCC)、豪州のキャンベラ深宇宙通信施設(CDSCC)の大型アンテナからなる深宇宙探査通信情報網「ディープスペースネットワーク(DSN)」を通じて、地球の自転や位置にかかわらず、月やその先を航行する探査機と常時交信している。

ボイジャー2号の場合は、1989年、海王星の衛星「トリトン」に接近した際に「トリトン」の北極上空を通過したことで、その軌道が大きく南に向かっているため、北半球の地上局と交信できない。ディープスペースネットワークは、複数の通信施設で交信をカバーすることになっているが、地球からボイジャー2号と交信できるのは、南半球にあるキャンベラ深宇宙通信施設の直径70メートルの大型パラボラアンテナ「DSS43」のみとなっている。

1973年から稼働する「DSS43」は、ボイジャー2号との交信に用いられてきた無線通信機が47年間交換されていないなど、老朽化がすすんでいた。そこでジェット推進研究所は、2020年3月、「DSS43」の稼働を中断し、その改修に着手。新しい無線通信機2基が導入されたほか、冷暖房設備や電源装置などが交換されている。


34時間48分後には、ボイジャー2号から応答があった......

10月30日には、テスト通信として「DSS43」からボイジャー2号に向けて指令を送った。34時間48分後には、ボイジャー2号から信号を受信したことを確認する応答があり、指令も問題なく実行された。ジェット推進研究所のブラッド・アーノルド氏は「今回のボイジャー2号とのテスト通信は、一連の改修がうまくいっていることを示すものだ」とその成果を強調している。

「DSS43」の改修は11ヶ月の予定ですすめられており、2021年2月には、その稼働が再開される見込みだ。なお、「DSS43」の改修期間中も、ボイジャー2号の運用状況や星間空間での観測データは、キャンベラ深宇宙通信施設に設置されている直径34メートルの無線アンテナ3基で継続的に受信している。

ボイジャーは、2025年には搭載されている原子力電池の一種RTGの寿命となると言われており、それまで太陽圏外の貴重な観測データを送ってくれることが期待されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中