最新記事

イスラム教

「コロナワクチン、ハラルであればいいがハラルでなくてもOK」 インドネシア副大統領、前言翻す

2020年10月5日(月)21時26分
大塚智彦(PanAsiaNews)

アミン副大統領(右)がワクチンのハラル発言を撤回して、ジョコ・ウィドド大統領(左)もひと安心? REUTERS/Willy Kurniawan

<世界で最多のイスラム教徒を抱える国はコロナ対策にも戒律が関わる?>

インドネシアが中国の製薬会社と共同で開発を進めている新型コロナウイルスのワクチンに関して、マアルフ・アミン副大統領が「イスラム教で摂取が許されているハラル(許されたもの)である必要は必ずしもない」との見解を示して話題になっている。

それというのもアミン副大統領は8月に「ワクチンといえども体内に摂取する以上はイスラム教徒が摂取を認められているハラルであるかどうかを調査して、ハラルの認証を受ける必要がある」という趣旨の発言を行い、医療関係者やマスコミの間から「イスラム教指導者が命より宗教を優先するのか」などと批判を浴びていたからだ。

アミン副大統領のスポークスマンはこの「ワクチンのハラル問題」に関して「投与されるワクチンの成分に関しては医療上緊急性があることからハラルかどうかは問われない」とのアミン副大統領の発言の真意を説明しているが、イスラム教指導者団体の幹部であり同時に副大統領という要職にある人物の前言撤回だけに安堵の声とともに一部からは失笑も買っている。

イスラム教指導者としてハラルを主張

アミン副大統領はインドネシアのイスラム教指導者の組織である「イスラム教聖職者(ウラマ)評議会」(MUI)の名誉議長の要職にあり、その発言がイスラム教徒、各種イスラム教団体に与える影響は大きい。MUIはファトワという宗教令を出すことのほかに、ハラルの認証も行うインドネシアでは最も権威と力のあるイスラム教組織とされている。

そのMUIの名誉議長でありジョコ・ウィドド大統領の副大統領を務めるアミン氏が、8月5日に中国の製薬会社「シノバック」とインドネシアの国営製薬会社「バイオ・ファルマ」が進めているワクチン開発に関連して「ワクチンの成分がイスラム教徒にとって体内に摂取することを許されているハラルに適合しているかどうかを調べて、お墨付きとなるハラル認証の宗教令をだす準備をするように」と指示したと地元マスコミが伝えた。

イスラム教徒は原則として豚肉、豚肉の成分、アルコール成分などを摂取することが宗教上の禁忌とされる。

2001年にはハラル認証を受けていた「味の素」の製造過程で、触媒に豚抽出の酵素が使用されていたことが明らかになり、味の素現地法人の日本人スタッフらが逮捕されたり、「味の素ボイコット」の動きがでたりしたこともある。

また2018年には「はしか」ワクチンがハラルでないとして、イスラム教徒の摂取が禁止される「ハラム(許されていないもの)」と認定されるなどの事案も起きている。(参考=9月9日「ワクチンにもハラル認証が必要 副大統領務めるイスラム教指導者 命か宗教か、選択迫られるインドネシア」)

ハラル発言に戸惑ったインドネシア社会

このアミン副大統領の「ワクチンもハラルであるべき」との発言は、世界第4位の人口約2億7000万人の約88%を占めるイスラム教徒にとっては重要な指標となるため、インドネシア社会に大きな戸惑いを与えた。

もしワクチンが「ハラル認証」を得られなかった場合、イスラム教徒はワクチンの接種が公には認められないことになるからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中