最新記事

抗議デモ

専門家「英国で夏に大規模な暴動が起こるおそれがある」と警告

2020年6月16日(火)17時00分
松岡由希子

イギリス南西部ブリストルで17世紀の奴隷商人エドワード・コルストンの銅像が川に投げこまれた ...... REUTERS/Luke MacGregor

<イギリスの非常時科学諮問委員会のメンバーが「人種的・経済的不平等への懸念と、新型コロナウイルス感染拡大に伴う大量失業や失業率の上昇によって、この夏、英国全土で暴動が起こるおそれがある」と警告した ......>

黒人男性ジョージ・フロイドさんが2020年5月25日、米ミネアポリスで白人警官に首を圧迫されて死亡した事件に端を発した人種差別への抗議デモは、新型コロナウイルス感染拡大防止策としていまだ大規模集会が禁じられている英国にも広がっている。

2011年8月の「イギリス暴動」再発の懸念

首都ロンドン、マンチェスター、カーディフなどの各都市では、これまでに数万人規模の抗議デモが行われた。イギリス南西部ブリストルでは、6月7日、17世紀の奴隷商人エドワード・コルストンの銅像が一部のデモ参加者によって川に投げ込まれ、首都ロンドンでも、6月9日、18世紀の奴隷商人ロバート・ミリガンの銅像が撤去された。

イギリスの非常時科学諮問委員会(SAGE)の分科会「SPI-B」のメンバーであり、民衆暴動対策について内務省にも助言する英キール大学のクリフォード・スコット教授は、「人種的・経済的不平等への懸念と、新型コロナウイルス感染拡大に伴う大量失業や失業率の上昇によって、この夏、英国全土で暴動が起こるおそれがある」と警告。

最悪の場合、2011年8月、ロンドン北部で黒人男性が警察官に射殺されたことを発端にイングランド全土で広がった「イギリス暴動」に匹敵する規模にまで拡大する可能性があるという。「イギリス暴動」では、5名が死亡し、およそ4000名が逮捕された。

スコット教授は、英通信社プレス・アソシエーション(PA)のインタビューで、「今、警察が地域コミュニティとの良好な関係構築に努めなければ、この夏、大規模で深刻な民衆暴動が起こるおそれがある」とし、「2011年に『イギリス暴動』を引き起こした状況を生み出さないためにも、今こそ、根本的な原因に対処する必要がある」と説いている。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響

スコット教授は「新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、英国の状況は、この数ヶ月で大幅に変化するだろう」との見通しを示す。すでにその兆候は失業保険申請件数からもうかがえる。

イギリス国家統計局(ONS)によると、2020年4月の失業保険申請件数は対前月比69.1%増の約210万件にのぼっている。スコット教授は「適切に対処しておかなければ暴動にもつながりかねない、不平等にまつわる重大な問題が存在している」と指摘する。

今後、局地的な封鎖が行われ、貧困層が多く居住する地域により厳格な規制が課されることがあれば、貧困層が多く居住する地域と富裕層が暮らす地域との間に格差が生じる可能性もある。また、このような規制のもと、ブルーカラーの若者の集団が警察から目を付けられ、警察の行動に対して多くの若者が「不公平だ」と感じるようになるかもしれない。

スコット教授は「警察が不公平に強制力を行使すれば、社会的一体性が損なわれ、警察の取締りに対して不公平感が生まれ、これらの要因によって社会的葛藤が促されるおそれがある」と警告している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

株式・債券ファンド、いずれも約120億ドル流入=B

ワールド

中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入

ビジネス

アングル:米ダウ一時4万ドル台、3万ドルから3年半

ワールド

北朝鮮、東岸沖へ短距離ミサイルを複数発発射=韓国軍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中