最新記事

米外交

WHO脱退も対中強硬姿勢も自分の失態隠し。トランプ外交が世界を破壊する

Trump Scapegoats China and WHO—and Americans Will Suffer

2020年6月1日(月)18時55分
ローリー・ギャレット(科学ジャーナリスト)

ホワイトハウスで新型コロナ対策の定例会見を開くトランプと社会的距離を取る報道陣(5月11日) Kevin Lamarque-REUTERS

<WHOと中国を悪者にすれば選挙での武器になるかも知れないが、情報は最初からきちんとそろっていたはずだ>

5月29日、アメリカのドナルド・トランプ大統領はWHOから脱退すると宣言した。これは道義的に問題があるばかりか違法な決定だ。また、指導者としてのトランプの問題点の最たるものがあぶり出された場面でもあった。つまり、自分の失敗を他人のせいにする、他の国や組織の指導者たちと礼儀正しく手を携えて国際問題に取り組むのを嫌がる、前後も考えず利己心のままに行動し、科学を軽視するといった側面だ。

今回のトランプの発言は、4月15日にWHOへの資金拠出を停止するとしたとホワイトハウスの声明と軌を一にするものだ。この中でトランプは「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)への対処を誤った」とWHOを非難するとともに、「WHOはコロナウイルスはヒトからヒトへ感染しないという中国政府の主張をただただ繰り返すばかりだった。1月の間じゅう、中国政府の対応を称賛していた」と主張した。

その半月後、トランプは米情報機関に対し、公式にWHOと中国の関係を調査するよう命じた。この頃、マイク・ポンペオ国務長官は「武漢ウイルス」は湖北省武漢にあるウイルス研究所で作られたか、そこから流出した可能性があると再三、唱えていた。

<参考記事>アメリカの無関心が招いた中国のWHO支配

米情報当局自身が否定する中国元凶説を

もっとも米情報機関を統括する国家情報長官室は「新型コロナウイルスは人為的に作られたものでもなければ遺伝子操作もされていないとする幅広い科学的コンセンサスに同意する」との立場を取り、この疑惑をほぼ否定した。

トランプはまるで駄々っ子のように、アメリカ国内で新型コロナウイルスにより10万人を超える死者が出たのは自分以外の誰か(中国やWHO)のせいだと言い続けている。4月27日の記者会見では「(中国の責任について)非常に真剣な調査を行なっている。中国には不満を持っている」と述べた。「彼らに責任があることはいろいろな点から判断できる。発生地で食い止めることができたはずだとわれわれは考えている。すぐに食い止められたはずで、そうすれば世界中に広がることはなかっただろう」

その3日後、トランプはさらに踏み込んだ発言をした。「恐ろしいことが実際に起きた。ミスだったのか、最初のミスにさらなるミスが重なったのか、それとも誰かが故意に何かをやったのかはとにかく」、パンデミックを引き起こしたのは中国だとトランプは述べた。

複数の共和党の幹部によれば、党員を対象にした世論調査では、中国叩きはトランプ支持者の間で非常に人気が高く、秋の大統領選で再選を狙うトランプにとって武器になり得るという。多くのアメリカ人がトランプのコロナ対応に抱く不満の一部を相殺してくれるからだ。

<参考記事>迷信深い今のアメリカは新型コロナウイルスに勝てない?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中