最新記事

事件

インドネシアで新型コロナ医療従事者2人が襲われ死傷 警察と武装組織、相手の犯行と非難合戦

2020年5月26日(火)17時20分
大塚智彦(PanAsiaNews)

新型コロナウイルスの医療従事者が何者かに襲撃され緊急搬送されるようす KOMPASTV / YouTube

<新型コロナウイルスによる死者1373人と危機的状況のなか、医療関係者を狙う事件が発生。その理由は──>

インドネシアの最東端パプア州の山間部で5月23日、新型コロナウイルスの感染防止支援に当たっていた医療関係者が2人、正体不明の男から銃撃を受け、1人が死亡、1人が重傷を負う事件が起きた。

地元警察や軍は独立運動を続けるパプアの武装組織による犯行として襲撃犯の捜索を開始している。一方で警察に名指しされた武装組織側は声明を発表して「医療関係者を襲撃したのは治安部隊であり、我々に責任を転嫁しようとしている」と治安部隊を批判する事態になっている。

パプア地方は新型コロナ感染拡大防止のため他の地方からの海路、空路での自由な往来が制限されていることに加え、従来から地元マスコミ、外国メディアを含めて自由な取材が厳しく制限されている。さらに治安部隊による携帯電話網やWIFI,ネット環境の遮断もしばしば実施され、今回の襲撃事件の真相を確認する手段は限定されているのが実状だ。

とはいえ、新型コロナの感染者数、感染死亡者数が一向に減少しないインドネシア政府、保健当局にとって、これまでに少なくとも55人の医師や看護師などが新型コロナ感染で命を落としているという厳しい医療現場の実状に加えて、今回の医療従事者襲撃事件は、その背景が現時点では不明確ながらも大きな衝撃となっている。

医療品を遠隔地に輸送中の医療スタッフを襲撃

インドネシアの「アンタラ通信」や主要メディア「ジャカルタ・ポスト」や「テンポ」などの報道や現地からの情報を総合すると、事件は5月23日現地時間の午後4時半ごろ発生した。

パプア州中部山岳地帯にあるインタン・ジャヤ県ワンダイ郡で、遠隔地の住民に医薬品や医療品を運搬中の地元保健所に務めるパプア人アマレク・バガウ氏(30)とエニコ・ソモウ氏(39)の2人が、移動中に正体不明の男性から銃撃を受けた。連絡を受けた警察・軍の合同部隊が現場に駆けつけ、2人を隣接するナビレ県ナビレ市にあるナビレ病院に搬送したが、エニコ氏は銃傷が原因で死亡、アマレク氏は重傷となっている。

現場は急報を受けて空路と陸路で展開した警察と軍の合同チームが到着まで5時間を要したという遠隔地。2人は地元保健所の担当者として新型コロナ感染防止のための医療器具やその他の医薬品を山間部に点在する集落に住むパプア人に輸送する任務の最中だったという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ミャンマー内戦、国軍と少数民族武装勢力が

ビジネス

「クオンツの帝王」ジェームズ・シモンズ氏が死去、8

ワールド

イスラエル、米製兵器「国際法に反する状況で使用」=

ワールド

米中高官、中国の過剰生産巡り協議 太陽光パネルや石
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカ…

  • 6

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 7

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 10

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中