最新記事

新型肺炎 何を恐れるべきか

世界が想定すべき新型コロナの最悪シナリオ──他の国々がこれから経験する3つの問題

PREPARE FOR THE WORST

2020年3月9日(月)16時10分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌シニアエディター)

感染拡大に伴い、親中派と反中派の分断がさらに深まるだろう。カンボジアのフン・セン首相やパキスタンのイムラン・カーン首相など親中派の指導者にとってトップダウン式の中国の感染症対策は危機対応のお手本にほかならない。一方、中国懐疑派はウイルス発生初期の情報隠しが感染拡大を招いたとして中国共産党に集中砲火を浴びせている。

これまでに挙げた3つの問題は相互作用でエスカレートする。封鎖がパニックを招き、パニックが市場を混乱させ、差別を助長する。差別と分断が国際協力を阻み、さらなる封鎖圧力を生む。最も危険なシナリオは、そんな負のスパイラルの果てに社会システム全体が崩壊することだ。

それがどんな状態なのか、世界は既に目の当たりにした。武漢ではもともと脆弱だった医療システムが新型ウイルスの発生であっという間に崩壊。救急車や病床など医療資源が不足し、本来なら救えたはずの膨大な命が失われた。

中国は今でも1人当たり所得は比較的低いが、豊かな富とマンパワーを誇る国だ。インドやインドネシアなど膨大な人口を抱えつつも、物的・人的資源はずっと乏しい国々はさらに悲惨な状況に陥るだろう。医療や銀行業務など人々の日常生活を支えるサービスが滞れば、ドミノ倒しで社会システムが崩れ始める。

だが、こうした展開は不可避ではない。危機に際して人々は驚くほどの底力を発揮する。状況に臨機応変に対処し、助け合う。予想より早くワクチンが開発される可能性もあるし、夏になればウイルスの勢力は弱まるかもしれない。医療崩壊に陥った武漢に比べて中国のほかの地域ははるかに致死率が低く、中国国外ではさらに低い。人々が手洗いなどを徹底すれば、隔離と封鎖よりも感染防止に大きな効果がある。

もしも各国の指導者がここに挙げた問題に本気で取り組めば、世界はきっとこの危機を克服できる。この「もしも」は重い意味を持つ。

From Foreign Policy Magazine

<2020年3月10日号「新型肺炎 何を恐れるべきか」特集より>

20200310issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月10日号(3月3日発売)は「緊急特集:新型肺炎 何を恐れるべきか」特集。中国の教訓と感染症の歴史から学ぶこと――。ノーベル文学賞候補作家・閻連科による特別寄稿「この厄災を『記憶する人』であれ」も収録。

※明日(3月10日)発売の3月17日号でも新型コロナウイルスの特集を組んでいます。

20200317issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月17日号(3月10日発売)は「感染症VS人類」特集。ペスト、スペイン風邪、エボラ出血熱......。「見えない敵」との戦いの歴史に学ぶ新型コロナウイルスへの対処法。世界は、日本は、いま何をすべきか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

円安、輸入物価落ち着くとの前提弱める可能性=植田日

ビジネス

中国、リチウム電池生産能力の拡大抑制へ 国際市場の

ワールド

台湾輸出、4月は予想下回る前年比+4.3% 対米輸

ワールド

ラファ市東部でイスラエル軍と戦闘中=ハマス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中