最新記事

2020 サバイバル日本戦略

【対韓国・北朝鮮】日本は「核保有した統一朝鮮」を利用せよ

DEALING WITH REUNIFIED KOREA

2019年9月27日(金)07時10分
阪堂博之(ジャーナリスト)

朴槿恵(パク・クネ)前政権が国民の「ろうそく革命」によって退陣した後に誕生した文政権は「国民感情」を最重視し、そこに正統性を見いだしている。しかし国民感情、つまり世論に左右される政権運営は強力なリーダーシップと大きなビジョンを欠く。政治力に欠け、世論の動向に左右されれば、対北朝鮮政策も一貫性を失いがちだ。北朝鮮が不信感を抱くのも無理はない。

その北朝鮮は3度にわたり金とドナルド・トランプ米大統領による米朝首脳会談を行ったが、実務協議には至っていない。「本当に核放棄する意思があるのか」と疑念を抱かれているが、北朝鮮は18年4月の朝鮮労働党第7期第3回総会で核開発と経済建設の並進路線を転換し「社会主義経済建設に総力を集中すること」を決定した。この路線はその後も転換されていない。

北朝鮮の核政策の根幹は①核放棄のプロセスはアメリカとの交渉による「行動対行動」の原則に基づいてのみ実施する②既に保有している核兵器の放棄は、アメリカと完全に対等かつ普通の外交関係になり、攻撃される脅威が完全に消え去った後の最終段階に行う──というものだ。つまり、自国に対する脅威が少しでも感じられるうちは核を放棄しない。この点を押さえておかないと、北朝鮮の行動を理解することは難しい。

アメリカが日韓を見捨てる?

仮に文の構想どおり、現状のまま平和的に南北統一が実現すればどうなるか。単純計算で人口約7600万人、面積約22万平方キロ(日本の約6割に相当する)の国家が誕生する。経済力は一時的に低下するだろうが、日本と海峡を挟んだ地に核を保有する国が出現することになる。

アメリカの核の傘はどこまで有効なのか。トランプの登場ではっきりしたが、アメリカの関心は自国の領土と権益を守ることにある。在韓米軍撤退はトランプ政権が言い始めたことではなく、1970年代後半にジミー・カーター政権が言及して大きな論争になった。日韓にとって、アメリカが米市民の大量の血を流して守ってくれる「守り神」であり続ける保証はない。

核を保有する統一朝鮮に敵対するのか、友好関係を維持するかという二者択一なら、日本には後者しか選択肢はないだろう。もし敵対するなら、日本も核武装するしかなくなるからだ。そうなれば東アジアの緊張は頂点に達する。それ以前に、世界唯一の被爆国として、たとえ状況がどうであれ、日本の核武装という選択肢に国民のコンセンサスは得られない。

朝鮮半島の向こうに中国とロシアという核保有大国が存在している以上、統一朝鮮と協力して、地域の力の均衡(バランス・オブ・パワー)を図る。国際政治の戦略上、それが最も妥当かつ有効な選択と言えよう。そのためには、かつての大日本帝国のように覇権を追求するのではなく、日本が自ら地域安定に向けたビジョンを描き、独自の外交力で存在感を発揮する道を模索すべきだろう。

気掛かりなのは、日韓の秘密情報保護協定(GSOMIA)破棄を宣言した文政権が、日米韓の同盟関係から抜け出しかねないことである。日本の外交力は既に試されている。

<本誌2019年10月1日号「2020 サバイバル日本戦略」特集より>

※「2020 サバイバル日本戦略」特集では他に、トランプ、習近平、ブレグジット、プーチン......と、国・テーマごとの「トリセツ」を掲載。「自分のことは自分で」が基調のこれからの時代の国際情勢を乗り切るため、日本は自分自身を変えていかねばならないと提言しています。

【参考記事】「盤石」の安倍外交、8年目の課題は「韓国」だ

20191001issue_cover200.jpg
※10月1日号(9月25日発売)は、「2020 サバイバル日本戦略」特集。トランプ、プーチン、習近平、文在寅、金正恩......。世界は悪意と謀略だらけ。「カモネギ」日本が、仁義なき国際社会を生き抜くために知っておくべき7つのトリセツを提案する国際情勢特集です。河東哲夫(外交アナリスト)、シーラ・スミス(米外交問題評議会・日本研究員)、阿南友亮(東北大学法学研究科教授)、宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)らが寄稿。


20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中