最新記事

プーチン2020

プーチン政権は永遠に続くのか ロシア政界が模索する引き延ばしの秘策

NOT READY TO QUIT

2019年9月6日(金)20時10分
クリス・ミラー(タフツ大学外交政策研究所ユーラシア部長)

昨年5月にも大統領就任式を前に各地で大規模な抗議デモが ANTON VAGANOV-REUTERS

<北方領土問題で日本をあしらい続けるプーチンは、5年後には大統領の「引退」を迎える。だが、憲法を改正して君臨し続ける可能性もある。本誌「プーチン2020」特集より>

「わが国の憲法はもう古い」。今年7月、ロシアの国会議長ビャチェスラフ・ボロージンが議会機関紙に寄稿してそう述べると、ロシア政界は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

なぜ議長がそんなことを? そしてなぜ首相のドミトリー・メドベージェフや大統領府報道官のドミトリー・ペスコフのような重鎮までが、慌てて自分の見解を表明したのか。

奇妙な話ではある。現行のロシア憲法は26年前に生まれた。各国の憲法に比べて、古いとは言えない。それに、ロシアの政治家は今までも都合のいいように憲法を書き換えてきた。

実のところ、本当の問題は大統領の任期制限だ。現行憲法は連続2期までしか認めていない。現職のウラジーミル・プーチン(66)は2024年に任期満了となるが、その時点でも年齢は70代に入ったばかり。アメリカで再選を目指すドナルド・トランプよりも、そのライバルのジョー・バイデンやバーニー・サンダースの今の年齢よりも若い。健康にも問題はなさそうだ。

前任のボリス・エリツィン(故人)は政治家として信頼を失い、健康も害していたから静かに余生を送った。だがプーチンに「余生」は似合わない。そもそも対外関係は最悪だから、ヨーロッパの保養地で老後をのんびり過ごすのは不可能だ。

後継者によって抹殺される恐れもある。後継の大統領なら誰だって、プーチンの完全な退場を願うはずだ。そうであれば、引退後のプーチンを待っているのは旧ソ連のフルシチョフ首相と同じ運命かもしれない。1964年の失脚後、フルシチョフは死ぬまで秘密警察の監視下に置かれた。

当然、プーチンは2024年以降も権力を保持したい。そのための方策はいろいろ取り沙汰されている。例えば「ロシア・ベラルーシ連邦」を設立し、その大統領に就くという手。現在もベラルーシとは関税同盟や合同軍事演習で密接な関係にあるから、さほど無理な話ではない。しかし現職のベラルーシ大統領アレクサンドル・ルカシェンコがおとなしく身を引くとは考えにくい。

だからだろう、新たな連邦国家をつくるよりは憲法を書き換えるほうが簡単だという議論が生まれた。選択肢は基本的に2つしかない。1つは、任期制限を撤廃して、プーチンを実質的な終身大統領とすること。しかしこれだと事実上の独裁制だ。経済が停滞し、政界の腐敗に国民の不満が高まるなかで賢明な選択とは言えない。

だから国会議長は2つ目の選択肢を用意した。憲法を修正し、大統領退任後もプーチンが権力を維持できるポストを新設する案だ。しかしこれは、2008年に最初の2期を終えたプーチンが「首相」に転じ、メドベージェフを大統領に据えた手法と酷似している。

【参考記事】北方領土問題を解決する気がないプーチンに、日本はどう向き合うべきか

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米CPI、4月は前年比3.4%上昇に鈍化 利下げ期

ワールド

スロバキアのフィツォ首相、銃撃で腹部負傷 政府は暗

ワールド

米大統領選、バイデン氏とトランプ氏の支持拮抗 第3

ビジネス

大手3銀の今期純利益3.3兆円、最高益更新へ 資金
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中