最新記事

香港

香港デモ、進化系ゲリラ戦術の内側

Hong Kong Protesters’ “Tenacious”Tactics

2019年9月5日(木)18時25分
デービッド・ブレナン

分散型の運動になり、頭の息の根を止めるやり方が通用しなくなったため、警察は苦肉の策として、雨傘革命の指導者たちを再び逮捕することで、デモの勢いを削ごうとした。

雨傘革命の指導者の1人で、民主化運動の活動家、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)も逮捕され、保釈金を払って釈放された。「逃亡犯条例改正案への抗議デモの指導者として」、警察が自分たち民主化運動の活動家に罪を着せるのは「ばかげている」と、黄は釈放時に語った。

実際、香港当局はこれまでと勝手が違う運動に狼狽しているようにも見える。「抗議デモの粘り強さ、融通無碍な適応力は、想定外だったようだ」と、デリールは言う。

「新たな戦術に手を焼き、時にはパニックに駆られて暴力に走るありさまだ。香港警察は優秀なことで知られていたのに、これでは名折れもいいところだ」

デモが長引くにつれて、警官たちはますます暴力的になっていった。唐辛子スプレー、警棒攻撃、催涙ガス、放水銃、ゴム弾などの威力がデモ隊相手に次々と試された。

デモ隊は、あっという間にそれらに対する対抗策を編み出した。たとえば警察が群衆を散らすためによく使う催涙ガス。

暴力も使い分け

デモ隊は「火消し」と呼ばれる少人数のグループを作り、前線のすぐ後ろで待機させる。催涙弾が飛んできて地面に落ちると、「火消し」の1人は前に飛び出し、用意していた交通規制用のコーンを上からかぶせて煙を閉じ込める。次に2人目がコーンのてっぺんの穴から水を注ぎ入れ、催涙弾を水浸しにする、という具合だ。

こうした活動から生まれたのがいわゆる「前線部隊」だ。警察の攻撃をしのぎ、デモ隊を守るため、急ごしらえの「武器」で武装した若者たちだ。火炎瓶を投げるにしろ、バリケードを築くにせよ、顔認識カメラを破壊するにせよ、いつも彼らが先鋒を務める。

「彼らは暴力に訴えているにもかかわらず、デモ支持者の称賛を受けやすい」と、ヨーは言う。「同時に、警察や政府支持者からは不法行為で批判される」 

彼らこそ、香港や中国当局がテロリスト呼ばわりをする反乱分子だ。

「これまでのなりゆきを考えると、暴力が増しているのは驚くにあたらない」と、テリールは言う。「デモ隊の焦りと体制の頑なさが、対立をエスカレートさせている。だが特筆すべきは、それでもデモが全体として平和的に収まっていることだ」

20190910issue_cover200.jpg
※9月10日号(9月3日発売)は、「プーチン2020」特集。領土問題で日本をあしらうプーチン。来年に迫った米大統領選にも「アジトプロップ」作戦を仕掛けようとしている。「プーチン永久政権」の次なる標的と世界戦略は? プーチンvs.アメリカの最前線を追う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、新誘導技術搭載の弾道ミサイル実験

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年に2%目標まで低下へ=E
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中