最新記事

通貨

マネーの主役は貨幣から人間へ──「マネー3.0」の時代

How to (Re) Make Money

2019年8月14日(水)16時00分
ガリア・ベナッツィ(分散型仮想通貨取引所バンコール共同創設者)

貨幣の誕生によって、売る行為と買う行為を切り離しやすくなった。物々交換ではなく、あらゆるものを同じもの(つまり貨幣)と交換できるようになると、欲しいものが対になる買い手と売り手――経済学で言う「欲求の二重の一致」――を見つける必要がなくなった。

さらに、近くの人とも遠くの人とも交易できるようになり、協力と知識と創造性と生産性の輪が大きく広がった。

これがマネー1.0だ。考古学者によれば、世界中で何世紀も続いたとみられる。

次に、貨幣を統治者が発行する時代が訪れた。以来、現在もなお、皇帝や国王、大統領、議会が、カネとして使うものを定義する責任を持つとされている。

型抜きした硬貨や印刷した紙幣、デジタルの台帳など、何を通貨として、どのくらいの量を流通させ、誰が最初に手にするかを決めるのは各国の政府だ。

税金は定められた通貨で払わなければならず、全ての市民が政府の決めた通貨を使うことになる。それ以外の通貨の使用は(現在のベネズエラのように)違法とされることも少なくない。一方で、各国の政府間で互いの通貨を有効と見なす協定が結ばれるようになった。

統治者が通貨の発行と認可の権限を持つと、社会の資産と生産手段を支配する権限も強くなる。貨幣となるものが大地から生まれていた時代には──誰でも見つけて採掘でき、増やすことができた社会では、このようなことは起きなかった。

これがマネー2.0だ。私たちの大半がこの時代しか知らず、それ以外の時代には想像も及ばない。

マネー2.0で最も重要な出来事は、ブレトンウッズで開催された連合国通貨金融会議だ。第二次大戦が終結する1年ほど前の1944年7月、米ニューハンプシャー州の絵はがきのような町ブレトンウッズに連合国45カ国の代表約700人が集まった。

米政界の混乱も、ナチス占領下のワルシャワで起きた武装蜂起と大虐殺もまるで別世界の出来事であるかのように、アメリカは連合国を集め、戦後に結ばれる国家間の経済協定の枠組みを決めて、将来の世界大戦を封じようとした。

会議の冒頭で、フランクリン・ルーズベルト米大統領(当時)は楽観的な希望を語った。「あらゆる国の経済の健全性を、その全ての隣国が憂慮するのは当然のことだ。世界経済の躍動的かつ着実な拡大を通してこそ、未来に対する私たちの希望を完全に実現できるレベルまで、それぞれの国の生活水準を引き上げることができる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

PIMCO、金融緩和効果期待できる米国外の先進国債

ワールド

AUKUSと日本の協力求める法案、米上院で超党派議

ビジネス

米国株式市場=ダウ6連騰、S&Pは横ばい 長期金利

ビジネス

エアビー、第1四半期は増収増益 見通し期待外れで株
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中