最新記事

南シナ海

中国船のフィリピン漁船当て逃げに弱腰対応のドゥテルテ 国内から総ブーイング

2019年6月19日(水)21時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

中国船に当て逃げされたフィリピンの漁船 (c) COAST GUARD OCCIDENTAL MINDORO via ABS-CBS News / YouTube

<麻薬犯罪には超法規的殺人で対応し、産廃ゴミなどを偽装輸出したカナダには「戦争だ」といきまくフィリピンのドゥテルテ大統領。だが相手が中国だと途端に事なかれ主義に──>

フィリピンが中国との間で領有権争いをしている南シナ海のリード礁(フィリピン名レクト環礁)で6月9日、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内の海域に停泊中のフィリピン漁船に中国のトロール船が衝突する事件が発生した。

漁船は沈没し、乗っていた漁民22人は海上で救助を求めていたにも関わらず、中国船は現場を立ち去り、数時間後に通りがかったベトナム船に漁民たちは全員救助された。この事件がフィリピン国民の反中感情を爆発させているが、ドゥテルテ大統領は今回の事件には極めて冷めた対応に終始しており、これがさらに国民の怒りを招く事態となっている。

フィリピン国防省が12日にこの事故の事実を明らかにすると、「停泊中の船舶に衝突した」「要救助者を助けず逃走した」ことに対し、厳しい中国批判がフィリピン国内で噴出した。

フィリピン政府関係者も「海上の漁民を見捨てる行為は野蛮だ」(フィリピン大統領府)、「当て逃げは臆病な行為である」(デルフィン・ロレンザーナ国防相)、「錨を下ろして停泊中の船舶への衝突は国際ルール違反であり、一般的な海上交通事故ではない。フィリピン漁船はぶつけられたのである」(ロバート・エンぺドラド海軍長官)、「もし衝突が意図的なら(中国との)断行もありうる」(サルバドール・パネロ大統領府報道官)「漁民を見捨てた行為は犯罪的行為である」(パンフィロ・ラクソン上院議員)と批判。また6月12日のフィリピン独立記念日にはマニラ市内の中国領事館前に抗議のデモ隊が押し寄せる事態に発展した。

開き直りから一転、認めるも言い訳終始

こうしたフィリピン側に対し、中国当局は当初「一般的な海上交通事故」「衝突した船が中国船とは未確認であり事実を立証もせず衝突事故を政治化することは無責任」(中国外務省の耿爽報道官、13日の記者会見)と責任逃れをするばかりか、逆にフィリピンを批判するなど開き直っていた。

ところがフィリピン漁船員の「衝突してきたのは中国船」との証言や抗議デモで中国への反感が急速に高まったことを受けて15日には「衝突したのは中国のトロール船(粤茂浜漁42212)だった」と中国側は事実を認めざるを得なくなった。

しかし「中国船の船長は救助しようとしたが他のフィリピン漁船に囲まれるのを恐れた。他の船に漁民が救助されるのを確認して立ち去った」と主張し、フィリピン側の「要救助者を放置して逃走した当て逃げである」との指摘はあくまで否定、言い逃れに終始した。

この中国側の言い分には「意図的衝突でないなら救助をためらい、まして恐れる必要はない」「いかなる理由も要救助者を身捨てる理由にはならない」とフィリピン国内の反発に油を注ぐ結果を招いただけだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中