最新記事

日韓関係

嫌韓で強まる対韓強硬論 なぜ文在寅は対日外交を誤ったか

2019年6月17日(月)18時45分
薬師寺 克行(東洋大学教授) *東洋経済オンラインからの転載

韓国に対する方針も例外ではなく、安倍首相の強い意向が反映されている。慰安婦合意は10億円を出すことを安倍首相が最終局面で決断し、合意にこぎつけた。ところが韓国政府は、朴槿恵大統領から文大統領に政権交代すると、あっさりと反故にしてしまった。

元徴用工判決については韓国政府が対応策を検討すると表明しながら、「民事の問題であり政府が関与すべきことではない」(文大統領)などとして何も打ち出そうとしない。その後も自衛隊機へのレーダー照射事件など日本に対する挑発的な行動が相次ぐ。安倍首相が裏切られたという思いを強くすることは想像にかたくない。それゆえの「韓国無視」であろう。

韓国の外交政策は秘書官集団が決める

「トップダウン方式」という点では韓国も同じだ。韓国は「帝王的大統領制」と言われるほど大統領に権力が集中している。外交政策も大統領の判断が力を持ち、日本以上に大統領中心で物事が決められている。

ところが韓国外交部幹部に聞くと、外交部の次官や局長らはもちろん、康京和(カン・ギョンファ)外相でさえ、文在寅大統領に会うことは難しいという。外交政策に関する文大統領の相談相手は、専門家集団である外交部ではなく、民主化運動の元闘士らが多くを占める大統領府の秘書官集団だという。彼らは日本を含め各国大使館関係者にもほとんど会わないといわれている。筆者も一度、面会を求めたことがあるが、「外国人と会うことは自分たちの職務ではない」と断られたことがある。

彼らが日韓関係の深刻さをどれだけ理解しているかはわからない。少なくともこれまでの文在寅大統領の言動を見る限り、大法院判決の重みや慰安婦合意の破棄がもたらした深刻な状況を十分に理解しているとは思えない。そして、日本にとっても文大統領や取り巻きの秘書官らが対外政策についてどういう戦略を描いているのか知ることが難しくなっているのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中