最新記事

事件

ウィキリークス創設者アサンジ容疑者起訴 「報道の自由」巧みに避けた米当局

2019年4月13日(土)12時00分

「自由な報道の擁護者」を自称するアサンジ容疑者(写真)に対して、共謀して政府機関のコンピューターに侵入し、機密文書を漏えいしたとの容疑で起訴に踏み切った米司法省の判断は、言論の自由を懸命に守ろうとする同容疑者の能力を縛るだろう、と一部の法律専門家は指摘する。写真中央の男性はウィキリークス編集長のクリスティン・フラップソン氏。ロンドンで撮影(2019年 ロイター/Hannah McKay)

内部告発サイト「ウィキリークス」の創設者ジュリアン・アサンジ容疑者(47)が、7年間の「亡命生活」を送っていた在英エクアドル大使館で逮捕された。

「自由な報道の擁護者」を自称するアサンジ容疑者に対して、共謀して政府機関のコンピューターに侵入し、機密文書を漏えいしたとの容疑で起訴に踏み切った米司法省の判断は、言論の自由を懸命に守ろうとする同容疑者の能力を縛るだろう、と一部の法律専門家は指摘する。

米バージニア州アレクサンドリアの連邦裁判所で11日明らかにされた起訴状によると、アサンジ容疑者は2010年、チェルシー・マニング(当時はブラッドリー・マニング)元米軍情報分析官が米政府ネットワークに侵入するためのパスワード解読を助けることに同意した。

マニング元分析官は当時すでに、グアンタナモ米軍基地の拘束者だけでなく、アフガニスタンとイラクにおける米国の軍事活動に関する機密情報をウィキリークスに漏えいしていた。この共謀により、マニング元分析官は検知されずにネットワークに匿名で侵入することが可能になったと起訴状には記されている。

国家安全保障法が専門である米テキサス大学のロバート・チェズニー教授は、このケースの争点はアサンジ容疑者がパスワードをハッキングしようとしたことであり、報道の自由の権利は関係ないと指摘する。

「起訴内容は極めて限定的であり、意図的なものだ」と同教授は語った。

米検察当局はアサンジ容疑者に対する容疑を追加する可能性があると、法律専門家はみている。

起訴は昨年内密に行われ、11日に公開された。それによると、アサンジ容疑者は、機密文書の公開については起訴されていない。ウィキリークスは2010─11年、戦争に関する機密情報を自身のウェブサイトで公開した。

また、2016年の米大統領選挙において、共和党候補のドナルド・トランプ氏を有利にするためロシアが盗んだと米情報機関がみている電子メールを、ウィキリークスが公開したことについても言及していない。この公開により、当時の民主党候補ヒラリー・クリントン氏はダメージを受けた。

英警察当局は11日、ロンドンのエクアドル大使館でアサンジ容疑者を逮捕し連行した。同大使館で7年間暮らしていたアサンジ容疑者の亡命を、エクアドル政府が撤回した。米司法省によると、同容疑者は米英間の犯罪者引渡条約の下で逮捕された。

アサンジ容疑者の弁護士であるバリー・ポラック氏は、起訴は言論の自由を抑圧しかねず、この「かつてない」容疑に、ジャーナリストたちは「非常に頭を悩ませる」ことになるとの声明を発表した。

「今日明かされたジュリアン・アサンジ氏に対する起訴内容は、コンピューター犯罪への共謀であるが、実際の容疑は情報源に情報を提供するよう奨励し、その提供者の身元を守ろうとしたことだ」とポラック氏は述べた。

ウィキリークスは、報道の自由に関する法律に守られたジャーナリズムの一環だと、アサンジ容疑者は主張し続けている。英国の司法機関は2017年、ウィキリークスを「報道機関」と認めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中ロ首脳が北京で会談、両国関係「国際社会の安定要素

ワールド

インドネシア次期大統領、8%成長「2─3年で達成」

ビジネス

中国EVのNIO、「オンボ」ブランド車発表 テスラ

ビジネス

ユーロ圏住宅ローン市場は「管理可能」、ECBが点検
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 7

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中