最新記事

不法移民

メキシコ国境に押し寄せる不法移民最多で米国境警備の危機

76,000 Migrants Illegally Crossed Border in February

2019年3月6日(水)16時50分
ベンジャミン・フィアナウ

ホンジュラスからメキシコとアメリカの国境近くまでやってきた移民。数千人のキャラバンに属している(2019年1月15日) Mohammed Salem-REUTERS

<トランプが壁建設を主張し始めてから、皮肉なことにメキシコ国境を超えてくる不法移民が急増。家族や一人きりの子どもが増えて人道の危機に>

米国境警備当局は3月5日、メキシコとの国境を超えてアメリカに入国した不法移民の数は、2月だけで7万6000人以上に達した、と発表した。

2月に国境を超えた不法移民の数は、前年同月の2倍以上。「メキシコ国境に壁を作る」が公約のドナルド・トランプが米大統領に就任して以来、最多となった。

トランプは、国家非常事態宣言を発令し、大統領権限で壁の建設資金を確保しようとしている。米上院は非常事態宣言を無効にする見通しだというが、それでもトランプは拒否権を行使する意向だ。トランプによれば、国境では今、アメリカの存亡に関わる危機が起きているので、どうしても壁が必要なのだ。

危機は危機かもしれない。だがアメリカの存亡に関わるというよりは、人道の危機だ。

米税関・国境警備局(CBP)のケビン・マカリーナン局長と、国境警備隊のブライアン・ヘイスティングスは3月5日、不法移民に関する記者会見を開き、国境を超えた移民の数はここ5カ月で4度、最多記録を更新したと述べた。マカリーナンは、国境警備および税関当局の体制は「限界点」に達していると述べた。

家族と子供とグループ

CBPによると、メキシコとの国境で身柄を拘束された不法移民のうち60%は、家族(FMUA)と、同伴者のいない未成年者(UAC)が占めている。つい1年前までは単独の男性ばかりだったのと様変わりだ。

CBPおよび国境警備隊によると、不法移民たちはニューメキシコ、テキサス、アリゾナ各州の人里離れた場所を狙い、数十人、場合によっては数百人単位で越境を試みるという。

国境警備当局も、厳しい制限や越境可能地の削減などで対抗しているものの、国境へと押し寄せる不法移民の波を押しとどめることができない。それどころか越境を試みるグループは大規模になる一方。100人以上のグループは、3年前はたった2つだったのに、昨年は70以上に達した。また「家族単位の外国人」が「記録的な数で越境している」とCBPは指摘、身柄を拘束した家族の数は、前年から300%増加したと述べている。

マカリーナンは、「現状は国境警備の処理能力をとうに超えており、限界点でなんとか持ちこたえている」と窮状を訴えた。宿泊施設や医療施設、移動手段など何もかもが足りないというのだ。「これは明らかに、国境警備および人道的な観点からの危機と言える」

マカリーナンによれば、新たな移民希望者の90%以上はグアテマラ出身、その他がホンジュラスやエルサルバドル出身で(かつては大半がメキシコ人)、アメリカの手前のメキシコを速やかに通過するため、徒歩ではなくバスなどの移動手段を用いてくるケースが増えている。以前ならアメリカ国境にたどり着くまでに数週間を要していた中米からの移民希望者が、今は数日でメキシコを通過するケースも増えているとマカリーナンは指摘した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 5

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 8

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 9

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中