最新記事

袋小路の英国:EU離脱3つのシナリオ

メイ首相は「悲惨なほど交渉力なく頑固一徹」 EU離脱混迷の責任は...

Separation Anxieties

2019年2月5日(火)12時30分
ナイジェル・ファラージュ(イギリス独立党元党首)

2016年の国民投票でファラージュは離脱派の急先鋒だった ROB STOTHARD/GETTY IMAGES

<2度目の国民投票になれば、前回以上の大差で離脱派が勝利する――。国民投票で離脱派の急先鋒だったナイジェル・ファラージュはこう予想する>

※2019年2月12日号(2月5日発売)は「袋小路の英国:EU離脱3つのシナリオ」特集。なぜもめている? 結局どうなる? 分かりにくさばかりが増すブレグジットを超解説。暗雲漂うブレグジットの3つのシナリオとは? 焦点となっている「バックストップ」とは何か。交渉の行く末はどうなるのか。

◇ ◇ ◇


テリーザ・メイ政権は去る1月15日の採決で、決定的な敗北を喫しただけではない。政府の提案がこれほどの大差で否決されたのは前代未聞だ。

イギリスのEU離脱に向けてメイのまとめた協定案は230票(下院定数の3分の1を超える数だ)の大差で否決された。否決は予想どおりだったが、その票差は大方の予想をはるかに上回るものだった。まさに「大惨事」、いやそれ以上に悲惨な事態だ。

イギリスがこのような事態に陥ったことの責任は、どう見てもメイ首相にある。彼女自身が、今のイギリス政治における最大の問題だ。悲惨なほど交渉力が足りないのに頑固一徹な彼女が、国民に潔いEU離脱をもたらす障害となっている。まともな人間なら、とっくに職を辞しているはずだ。

この2年間の交渉を通じて、メイはEU官僚にずっと主導権を握られていた。彼女の指導力不足は明らかで、まるで和平交渉に引き出された敗軍の将。破綻した政治的プロジェクトに見切りをつけると民主的な投票で決めた独立国の指導者には見えなかった。

いい例が2017年12月8日だ。メイはEUのミシェル・バルニエ首席交渉官が決めた日程を忠実に守るため、午前4時15分に出発してブリュッセルに赴き、英領北アイルランドと(EU加盟国の)アイルランドの間で「国境」が復活するのを避けるバックストップ策に原則合意した。それでは英本土と英領北アイルランドを分断することに、事実上のゴーサインを出したに等しい。

唯一の打開策は再投票か

これは彼女のEU側への服従を象徴する例だった。こうした失敗が、EU残留派の議員たちに付け込まれる隙を生み出した。残留派はこれで勢いづき、事あるごとにEU離脱に向けたプロセスに割り込み、骨抜きにしてきた。2度目の国民投票という要求が噴き出したのもこの時だ。

皮肉なもので、メイがEU側とまとめた協定案に対しては離脱派の議員も残留派の議員も一致して反対した。だから、あの無惨な結果となった。

離脱派から見れば、メイの提案は大切な主権の回復を不可能にするだけでなく、離脱に伴う清算金390億ポンドの支払いを強いるものだった。一方で残留派は、何としても2度目の国民投票に持ち込み、離脱を撤回させたいと考えて反対票を投じた。

その本質において、メイの提案は降伏文書以外の何物でもなかった。それも当然。そもそも彼女は2016年の国民投票で離脱反対の票を投じている。「2度目の国民投票が行われたら離脱と残留どちらに票を投じるか」と問われたときも明確な答えを避けている。

【関連記事】ブレグジット秒読み、英EU離脱3つのシナリオ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中