最新記事

インド

ハリポタをテーマに名門法科大が法律コースを開設したインドならではの事情とは?

2018年10月31日(水)19時20分
モーゲンスタン陽子

法律はハリポタで学べ! Mark Blinch-REUTERS

<インド有数の法科大学がこのほど、ハリポタをテーマにした法律コースの開設を発表した。そのインドならではの事情は...>

初版刊行から20年が過ぎても、その人気の衰えないハリー・ポッター・シリーズ。そんなハリポタが、まったく別の世界でも注目を集めている。インド有数の法科大学がこのほど、ハリポタをテーマにした法律コースの開設を発表した。

魔法界を正す法律を考えよ

この12月からハリポタ法科コースを開くのは、インドの名門校の1つ、コルカタの国立法科学大学(NUJS)。コース名は「ファンタジー小説と法のインターフェイス:ローリング[ハリー・ポッターの著者]のポッター韻文特別集中」。必修ではなく自由履修コースで、受講できるのは4、5年生。合計45時間を40人の学生に提供するという(インディアン・エクスプレス)。

この実験的なコースの目標は、それが商法であろうが憲法であろうがポッターワールドの刑法であろうが、法の原則を当てはめ、現実世界と対比させることだ。魔法省の機能の分析や、クィディッチとスポーツ法も含まれる。すべてを考慮し、魔法の国にふさわしい法案を考え出すことを生徒に奨励すると、コースをデザインしたシュヴィック・クマー・グーハ助教授は言う。

インドならではの事情も

ファンならご存知だろうが、ハリポタの世界は意外と民主的ではない。ドビーなど屋敷しもべ妖精の扱いはひどいものだし、魔法牢獄アズカバンの囚人に人権などない。日刊預言者新聞は政府の機関紙になりさがり、ホグワーツに派遣されてきた魔法省のドローリス・アンブリッジは子供たちを平気で拷問にかける......。

だが、ただ楽しく学ぶためにハリポタが採用されたわけではない。インドでは、奴隷、拷問、差別などは現実に存在する問題だ。しかし、さまざまな宗教や価値観が入り混じるインドでは、ある人の「正論」が必ずしも他の人の正論とはなり得ない。グーハ助教授は、自分にも政治的な偏りがあるが、それを教室に持ち込むわけにはいかないとし、「だから生徒たちが先入観をもたない教材を使いたい。ハリポタの世界で表現された差別は、生徒たち全員が間違っているということで合意できるものだ」と言う(ガーディアン)。

ハリポタシリーズはインドでも広く読まれており、30以上の現地語に訳されているという。BBCによると、同コースの申込者はすでに40の定員に達し、多くの学生がコースのキャパシティを拡大するようグーハに求めているそうだ。

アメリカやイギリスでも

ハリポタを扱うコースがインドで開設されたのは実は初めてではない(テレグラフによると、2012年、デリー大学で同類のコースが開設されたが、受講希望者が多すぎて閉鎖となった)。

また、ハリポタをテーマにした(文学以外の)講義を扱う大学は、名門イェール大学をはじめ、アメリカやイギリスでもすでに多くあるようだ。世界初はイギリス、ダラム大学の偏見・市民権・いじめなどを研究するプログラムだったと言われる。ただし法学ではインドが初めてのようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ミャンマー内戦、国軍と少数民族武装勢力が

ビジネス

「クオンツの帝王」ジェームズ・シモンズ氏が死去、8

ワールド

イスラエル、米製兵器「国際法に反する状況で使用」=

ワールド

米中高官、中国の過剰生産巡り協議 太陽光パネルや石
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカ…

  • 6

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 9

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 10

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中