最新記事

アメリカ外交

アメリカとサウジ、記者失踪巡り交錯する利害と思惑

2018年10月18日(木)11時29分

米トランプ大統領はポンペオ国務長官をサウジに派遣、ムハンマド皇太子と会談した。Leah Millis-REUTERS

米国とサウジアラビアは過去70年にわたり、相互に依存する関係にあった。サウジは原油を輸出し、米国は地域の安定を提供。原油価格やイラン包囲網、テロ封じ込め、シリアやイエメン内戦への対策、米国向けの投資からパレスチナ紛争まで、この2国は時に協力し合い、時には対立する関係にあった。

だが、10月2日にサウジ人記者ジャマル・カショギ氏がトルコ・イスタンブールの総領事館で消息を絶ってから、米国とサウジの間で緊張が高まっている。

トルコはカショギ氏が殺されたと主張し、サウジ側は否定しているが、一部報道では尋問中に誤って死亡したとの説明を準備していると伝えられた。

両国間の関係変化による影響やリスクをまとめた。

●原油

サウジアラビアは世界最大の原油輸出国であり、供給量を調整して価格を上下できる能力がある。通常は将来の価格に影響を与えず、現状の原油収入が最大限になるような水準に調整している。サウジにとって原油収入は国家予算や、非石油部門の発展を後押しするための政府系ファンド「パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)」の財源を賄うためにも原油収入は必要だ。

一方で米国も、国内でシェールオイルの生産が拡大するにつれ、輸入原油への依存度が下がっている。

ただ、もしサウジが原油輸出を減らし、原油価格が上昇するような状況になれば、米国の経済成長にとっては重しとなり、2020年の次期大統領選で再選を目指すトランプ大統領にとっては逆風となりそうだ。

また、原油価格が上昇すれば、米国の思惑とは反対に、イランにとって原油収入が増えることになり、米国のイラン対策の足を引っ張ることにもなりそうだ。

●武器輸出

トランプ大統領はカショギ氏失踪を巡り、サウジに強硬姿勢で臨むかで苦慮している。大統領は13日、カショギ氏が総領事館内で殺害されたことが確認されれば、サウジに「厳しい処罰」を科すと述べた。ただ、米国からサウジ向け武器輸出を止めるのは、米国の雇用が失われ、ロシアと中国の企業に恩恵をもたらすだけだとして慎重な姿勢を示した。

一方、共和党のリンゼー・グラム上院議員は、フォックス・ニュースに対し「サウジに制裁を加える」と述べ、さらにフォックス・ニュース・ラジオのインタビューでは「(サウジのムハンマド皇太子が権力の座にある限り)武器輸出を停止する」と述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中