最新記事

暗殺事件

金正男暗殺事件の実行犯女性アイシャ被告らの裁判は審理継続に マレーシア裁判所

2018年8月16日(木)14時50分
大塚智彦(PanAsiaNews)


これまでの審理を伝える現地メディア The Star Online / YouTube

インドネシア国内では無罪を求める声

検察側は2被告が事前に北朝鮮国籍の男性から手順の説明を詳しく受け、空港内で事前に「練習」していたことや、犯行直後にトイレで手を念入りに洗っていることから「液体が毒物であることを知っていた」などとして「殺意があった」として殺人罪での起訴に踏み切った。

しかし当初から「2被告はスケープゴートで、北朝鮮の容疑者なしの裁判は真相解明に程遠く、不公正である」(インドネシア地元紙)などと無罪を求める声が強かった。

ベトナム、インドネシアの対応に温度差

アイシャ被告に対しては逮捕直後からクアラルンプールのインドネシア大使館関係者が頻繁に面会に足を運び、法的支援やジャカルタ西郊バンテン州セランに住む両親との連絡を仲介するなど積極的な活動で支援してきた。

アイシャ被告は両親に宛てて手紙を送り「裁判は早く終わって家に戻ることができると信じている。心配しないで下さい」などと伝えていた。

「娘は間違いを犯していない、犠牲者だ。無事に帰ってこられることを祈っている」とインタビューで両親は無罪判決への期待を示していた。同日の審理継続の決定を聞いたアイシャ被告の父アスリアさんは「運命を政府とアラーの神に委ねるしかないが、娘が早く釈放され、自由になることを願っている」と言葉少なに話した。

newsweek_20180816_155313.jpg

事前情報では無罪判決有力と聞いていただけに審理継続の報を聞いてショックを隠せないフォン被告の父親ドアン・バン・タン氏(右)と兄のドアン・バン・ビン氏(左) 地元記者提供


一方のフォン被告側は在マレーシアのベトナム大使館やベトナム外務省の関係者さらに弁護士も頻繁に面会に訪れることはなく、法的支援も限定的なものに限られ、フォン被告は拘置所内で孤立感を深めていたいという。

ベトナム北部の首都ハノイから東南に車で約3時間のナムディン省ギアフン県ギアビン地区にある留守宅では、ベトナム外務省からの連絡を受けたフォン被告の父親と兄が報道陣に対応、父のドアン・バン・タン氏(58)は「とても残念だ」と落胆の表情を見せ、兄のドアン・バン・ビン(42)は「裁判所に任せるしかない」と言葉少なに話した。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

20240514issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月14日号(5月8日発売)は「岸田のホンネ」特集。金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口……岸田文雄首相が本誌単独取材で語った「転換点の日本」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英国でのIPO計画が増加、規則改正控え=ロンドン証

ビジネス

円安で基調物価上振れ続けば正常化ペース「速まる」=

ワールド

ロシア、ウクライナのエネルギー施設に大規模攻撃 停

ビジネス

韓国現代自、米EV工場でハイブリッド車も生産へ=幹
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 4

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 5

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 10

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中