最新記事

東南アジア

インドネシア大統領も「超法規的殺人」を指示

2017年7月24日(月)14時47分
大塚智彦(PanAsiaNews)

麻薬密売容疑で逮捕されたインドネシア人と外国人(昨年7月、ジャカルタ) Darren Whiteside-REUTERS

<フィリピンのドゥテルテ大統領が麻薬犯罪の取り締まりを強化した結果、取引がインドネシアに移ってきた。ならばこちらもドゥテルテ同様の強硬手段を使わざるを得ない>

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は7月21日、麻薬犯罪の取り締まりにあたる警察官、麻薬捜査局などの捜査官に対し「現場で抵抗する犯罪者には躊躇なく発砲し射殺せよ」との指示を出した。これを受けて翌22日にはティト・カルナフィアン国家警察長官も「インドネシアはフィリピンの次の新たな麻薬密売の市場になっている」と警告し、特に外国人麻薬犯罪者で抵抗する者に対しては容赦なく発砲するように改めて指示した。

大統領、国家警察長官が相次いで麻薬犯罪者への射殺を含む厳しい姿勢を表明した背景には、7月13日に首都ジャカルタの西方、バンテン州セラン県のアニェル海岸で摘発された覚せい剤密輸事件がある。これは同海岸で台湾人4人がゴムボートで沖合から上陸、車両に積み替えて建物に50個の箱を搬入しようとしていたところを張り込み中の捜査官が摘発、2人を逮捕、車で逃走を試み捜査官をひこうとした1人を射殺、1人が現場から逃走した事件だ。

【参考記事】内憂外患のフィリピン・ドゥテルテ大統領、暴言を吐く暇なし

この時押収した50箱からは総重量1トンの覚せい剤メタンフェタミンの結晶が押収された。この量はインドネシア麻薬捜査史上どころか東南アジア史上でも1回の押収量としてはおそらく最大級という規模だった。

外国人が大量の覚せい剤、麻薬をインドネシアに密輸し、これが国内市場に流れるほか、インドネシアを経由して第3国に流れるケースも増えるなど近年インドネシアは国際的な麻薬密輸ルートの一端を担い、国内の麻薬犯罪も増大傾向にある。

厳罰主義も後を絶たない麻薬犯罪

その背景として東南アジアの一大麻薬密輸拠点だったフィリピンが昨年6月30日に就任したドゥテルテ大統領による「超法規的殺人も辞さない」という強硬な姿勢で麻薬犯罪撲滅に乗り出したことが大きく関係している。

【参考記事】ドゥテルテは「負傷した司法省職員を射殺した」

インドネシアの国家麻薬委員会(BNN)関係者によるとフィリピンに経由地として流入していた中国、香港、台湾からの麻薬がフィリピンでの摘発を警戒して直接マレーシアやインドネシア、タイに密輸されるケースが増えているという。とくに広大な群島国家で海路での密輸が容易なインドネシアが格好の標的となっていると指摘する。

BNNや国家警察のこれまでの捜査では1トンの覚せい剤は台湾、マレーシアを経由してインドネシアに到着した小型船(135トン)からアニェル海岸の沖で小型のエンジン付きゴムボートに積み替えられて海岸に深夜から未明にかけて密輸されたものという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英労働党党首、パレスチナ国家承認の意向 和平プロセ

ワールド

中国工業部門利益、1─4月は4.3%増で横ばい 4

ビジネス

欧州統括役に重本氏、青森支店長に益田氏・新潟は平形

ビジネス

ECB、利下げ開始の用意ある─レーン専務理事=FT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 9

    胸も脚も、こんなに出して大丈夫? サウジアラビアの…

  • 10

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中