最新記事

シリア

ポストISIS戦略に残る不安

2017年7月10日(月)11時05分
ポール・マクリーリー

米主導の有志連合の支援を受けるシリア民主軍(SDF)はラッカを猛攻 Goran Tomasevic-REUTERS

<テロ組織ISISが「首都」と称するラッカ奪還を目前に治安部隊の育成が進むが、訓練期間はたったの7日>

テロ組織ISIS(自称イスラム国)が「首都」とするシリア北部ラッカの陥落が迫るなか、水面下で進められている計画がある。米軍と米国務省によれば、アメリカ主導の有志連合とその支援を受けるクルド人とアラブ人らの混成部隊「シリア民主軍(SDF)」はISIS掃討後のラッカの安全を守るため、約3500人の現地治安部隊の結成を急いでいるという。

ラッカ近郊の町アインイッサでは100人から成るラッカ市民協議会が結成され、米軍はこの町で治安部隊への訓練を続けている。彼らはいずれ、ISISから奪還した後のラッカの治安を担うことになる要員だ。現時点の計画では、人権保護や群衆整理、検問所の設置手法などを含む訓練を1週間積むことになっている。

「ラッカ治安部隊」と呼ばれるこの組織は、ラッカ市民の民族構成を反映し、市民協議会の監視を経て厳選された地元戦闘員で結成されることになると、アメリカ側は主張している。

だが20万人以上の人口を抱えるラッカの長期的見通しは懸念だらけだ。市民はISISが駆逐されるまでに何週間にもわたって過酷な市街戦や空爆、自爆攻撃に直面し続け、市内の至る所が破壊されている。

そんななか治安部隊の訓練計画が進められているのは、近くISISを制圧するとの米軍の自信の表れでもある。過去数週間でSDFは猛攻をかけ、ラッカを完全包囲して、ISISの退路を断っている。ユーフラテス川岸に撤退したISIS幹部らには米軍が空爆を加え、多くの戦闘員を殺害した。

既に米軍による訓練を終えた治安部隊メンバーは、約250人に上っている。その一部は新メンバーへの訓練を行う指導者として任務に就いているという。指導教官は、SDFと同様に、人権侵害などの前科がないかなど厳しい審査を経なければならないと、有志連合の米中央軍報道官ライアン・ディロン大佐は言う。

【参考記事】ポストISIS、トランプ版「最小限」の復興支援が始まった

アフガン地方警察の教訓

とはいえ、即席の治安部隊が果たしてラッカの治安を守れるのかは疑問が残る。訓練期間はたった7日間にもかかわらず、それを終えるとSDFと同レベルの装備を与えられる。AK47自動小銃や軍服、車両、医療用品などだ。

振り返れば、現地住民による治安部隊を育成する米軍の試みは、成功したこともあれば失敗に終わったこともあった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中