最新記事

原発

世界で盛り上がる廃炉ビジネス 2021年には約1兆円市場に

2017年6月21日(水)14時30分

6月12日、独ミュルハイム・ケールリッヒ原子力発電所のトーマス・フォルマール所長は、自分の職場をどう解体するかに知恵を絞っている。最善策は、人間を排除することだという。写真は1980年以前に操業開始したドイツの原発の組み合わせ写真(2017年 ロイター)

独ミュルハイム・ケールリッヒ原子力発電所のトーマス・フォルマール所長は、このところ、自分の職場をどう解体するかに知恵を絞っている。同所長によれば、最善の策は、人間を排除することだという。

国際エネルギー機関(IEA)によれば、この先25年間で、世界全体にある約200基の原子炉が閉鎖される予定で、その大半は欧州に集中している。これは、廃炉という非常に複雑で危険の伴う事業を専門とする6社程度の企業にとって、かなりの重労働が必要となることを意味する。

仏アレバ、露ロスアトム傘下のニューケム・テクノロジーズ・エンジニアリング・サービス、東芝<6502.T>傘下のウェスチングハウスなどの事業者は、人間による廃炉作業を回避し、代わりにロボットなどの新しいテクノロジーを活用する戦略を積極的に取り入れている。

こうした動きにより、これまで人間が扱う電動工具などに頼っていたこの業界そのものが変貌しつつある。最も急速な進歩がみられるのは、原子炉のコア、つまり核反応が生じる、放射能の強いプラント中心部の解体という、高度な技術を要する分野である。

この変革はエンジニアリング面におけるものだが、業界各社は、競争が激しく利益率の低い分野においても、新たなテクノロジーがもたらす工期やコストの削減にも期待している。

原子炉の廃炉作業には、その規模と古さによっては、数十年の工期と最大10億ユーロ(約1230億円)ものコストを要する可能性がある。独ミュルハイム・ケールリッヒ原子力発電所の廃炉費用は、約8億ユーロに上る、と同発電所の経済構造に詳しい関係者は推定する。

すでに、いくつかの進歩がみられる。仏アレバが開発したプログラム可能なロボットアームのおかげで、プラント内で最も放射能汚染の強いいくつかのコンポーネントの撤去に要する時間は、従来の切断手法に比べて20─30%短縮された。

アレバとウェスチングハウスの両社にとって、廃炉事業がそれぞれの厳しい財務状況に大きな影響を与える可能性は低い。両社の主力事業である原発建設に比べれば、廃炉はわずかな部分しか占めないからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中