最新記事

<ワールド・ニュース・アトラス/山田敏弘>

北朝鮮問題を解決するのはノルウェーなのか?

2017年5月11日(木)18時00分
山田敏弘(ジャーナリスト)

カイロからローマへの機上で会見に応じる法王フランシスコ Gregorio Borgia/REUTERS

<米朝の緊張を憂慮してローマ法王がノルウェーの仲介による解決を提案。確かにノルウェーには世界各地の紛争で和平交渉を仲介してきた実績があるが>

4月末、テロ組織ISIS(自称イスラム国)によってキリスト教の一派コプト教の教会が相次いで爆破された事件を受けて、ローマ・カトリック教会の法王フランシスコはエジプトを訪問し、暴力を批判する姿勢を示した。

そんなローマ法王は4月29日、ローマに戻る特別機の中で記者会見を行った。アメリカと北朝鮮の緊張が「あまりにもヒートアップしている」と語り、「私は常に外交的手段で解決するようを訴えている」と主張した。そして交渉を仲介できる第三国として、ノルウェーを挙げた。

なぜローマ法王が、ノルウェーを名指ししたのか。その理由は、北欧の小国ノルウェーは世界各地で紛争を仲介してきた実績があるからだ。

昨年、南米コロンビアのフアン・マヌエル・サントス大統領がノーベル平和賞を受賞した。サントスは、1964年から政府と内戦を続けてきた国内最大の左翼ゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)との内戦終結にこぎつけ、和平案に合意したことが評価されたのだが、この紛争の解決にノルウェー政府が関与していた。

【参考記事】中国とノルウェーの関係正常化、鍵は「ノーベル平和賞」と「養殖サーモン」

交渉は、2012年からキューバも巻き込んで行われた。ノルウェーの首都オスロで第1回の公式交渉が始まってから、ノルウェーの和平プロセス特使が5年近くにわたってコロンビア政府とFARCの間に立って、交渉を続けた。もちろんノルウェー以外にも様々な国がからんで内戦終結に向けた取り組みが実施されてきたが、最終的にはノルウェーの交渉力が大きかったと言われている。

ノルウェー政府は、コロンビアで見せたような、世界的な和平交渉をノルウェー政府の大事な役割だと考えている。特に1990年代から「和平仲介人」の乗り出し、1992年には中東和平問題の交渉を行って、翌1993年に「オスロ合意」を実現し、パレスチナ暫定自治政府の誕生の道筋をつけた。1996年には中米グアテマラの内戦で、政府と左翼ゲリラである統一組織グアテマラ民族革命連合(URNG)の和平協定調印に導き、36年続いた内戦を終結させた。

南アジアのスリランカでも、ノルウェーは26年にわたり続いたスリランカ政府と反政府武装組織「タミル・イーラム解放の虎」(LTTE)の内戦終結に重要な役割を担った。1983年に始まった内戦だが、1997年からノルウェーが関与して停戦に合意を実現した。またフィリピンでも、政府とフィリピン共産党など反政府勢力との和平交渉に関わっている。アフリカでは、スーダンや南スーダンの混乱にも深く関与してきたし、そのほかにも世界の紛争で存在感を見せている。

なぜノルウェーはあちこちの紛争に首を突っ込むのか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中