最新記事

未来の農業

最適な生育環境を「コピペ」して栽培できる農業技術「フード・コンピュータ」

2017年1月6日(金)16時30分
松岡由希子

MIT Open Agriculture Initiative

<デスクトップPCくらいの大きさのものから植物工場のような大規模な栽培施設まで、最適な生育環境を"複製"し共有できる農業技術プロジェクトをMITメディアラボが研究中だ>

 同じ遺伝子を持つ植物であっても、温度や湿度、照度など、生育環境によって、収穫される作物の量やその色、形、大きさ、味、栄養価は異なる。では、最適な生育環境を"複製"し、空間に"貼り付ける"ことで、場所や時期を選ばず、あらゆる作物を栽培することはできないだろうか。

 米マサチューセッツ工科大学メディアラボ(MIT Media Lab)の研究プロジェクト「「Open Agriculture(オープン・アグリカルチャー)」では、ロボットシステムとセンサー技術を活用した農業技術プラットフォーム「Food Computer(フード・コンピュータ)」の研究開発に取り組んでいる。

matuoka0106a.jpg

 このプラットフォームでは、温度や湿度、照度、pH(水素イオン指数)、DO(溶存酸素)などを最適に制御し、農作物の水、エネルギー、ミネラルの消費量を常時モニタリングする"スマート温室"のような栽培システムを開発。この仕組みは、「Personal Food Computer(パーソナル・フード・コンピュータ)」と呼ばれるデスクトップPCくらいの大きさのものから植物工場のような大規模な栽培施設まで、様々な規模に適用でき、必要なハードウェアのマニュアルやソフトウェアなどは、すべてオープンソースとして公開され、誰でも自由に利用したり、改変したりすることができる。

 「Food Computer」は、栽培システムのハードウェアやソフトウェアのみならず、それぞれの作物に最適な生育環境をも、オープンソースとして提供しようとしている。具体的には、まず、個々の栽培システムで計測されたデータをネットワーク上で収集。独自の機械学習アルゴリズムでデータ分析し、作物ごとに最適な生育環境を実現するプログラムを生成する。ユーザーは、このプログラムを「Food Computer」のオンラインプラットフォームからダウンロードし、それぞれの栽培システムで実行するだけで、いつでも、どこでも、特定の作物を最適な環境で栽培できるわけだ。

 「Food Computer」は、あらゆる情報、プロダクト、サービスが世界中に瞬時に共有されるネットワーク経済の仕組みと、主にソフトウェア開発の分野で発展してきたオープンソースのコンセプトを活用し、新しい食料生産の手段を創出しようとしている点が秀逸といえるだろう。

.
MITメディア・ラボ、CitiFARMの所長ケイレブ・ハーパーによるTEDでの講演:コンピュータが食物を育てる未来

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIモデルで

ビジネス

円安、輸入物価落ち着くとの前提弱める可能性=植田日

ワールド

中国製EVの氾濫阻止へ、欧州委員長が措置必要と表明

ワールド

ジョージア、デモ主催者を非難 「暴力で権力奪取画策
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中