最新記事

ラオス

何もなかった建設予定地、中国-ラオス鉄道が描く不透明な未来

2016年5月16日(月)16時41分
舛友雄大(シンガポール国立大学アジア・グローバリゼーション研究所研究員)

 昨年末に起工式が行われたもう1つの理由は、ラオスの政治動向と関連しているかもしれない。ソムサワート・レンサワット副首相はラオスでは珍しい華人政治家で、中国語も流暢だ。彼は通信衛星「ラオス1号」を含め、数々のプロジェクトを中国と立ち上げ、ラオス政府の債務を増やしてきた。なお、この副首相は、2013年9月に北京で中国中鉄という鉄道会社の国際部門幹部と共にゴルフをしていたことが確認されている。今年1月には党務から離れ、4月に副首相を交代。この鉄道計画はまさに、彼がぶち上げた「最後の打ち上げ花火」(アジア経済研究所の山田紀彦・海外研究員)と言える。中国側には、彼がいるうちに話をつけておこうという思惑があったのかもしれない。

 この鉄道計画は中国-ラオス関係にどのような影響を与えるのだろうか。今年のASEAN議長国として、ラオスが南シナ海の問題をどう扱うのかが注目されてきた。そんな中、4月末に中国が「南シナ海問題は、ASEAN全体の問題ではなく、係争が起こっている当事者のみの問題」という点でラオスを含めた3カ国と合意したと発表し、周辺国を驚かせた。一方、この地域で米中が睨み合いを続ける中、アメリカのオバマ大統領が今年、米国のリーダーとしては初めてラオスを訪れる予定だ。

 人口700万足らずで、東南アジアで最も経済的に未発達な国の1つであるラオスが、米中そして周辺諸国にとって、外交戦略上の大きな舞台になろうとしている。

[筆者]
舛友雄大
シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院アジア・グローバリゼーション研究所研究員。カリフォルニア大学サンディエゴ校で国際関係学修士号取得後、調査報道を得意とする中国の財新メディアで北東アジアを中心とする国際ニュースを担当し、中国語で記事を執筆。今の研究対象は中国と東南アジアとの関係、アジア太平洋地域のマクロ金融など。これまでに、『東洋経済』、『ザ・ストレイツタイムズ』、『ニッケイ・アジア・レビュー』など多数のメディアに記事を寄稿してきた。

※「5月には副首相を辞任する予定で、」を「4月に副首相を交代。」に訂正しました(5月17日)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ブラジル経済活動指数、第1四半期は上昇 3月は低下

ビジネス

マイクロソフト、中国の従業員700人超に国外転勤を

ワールド

アルゼンチン、4カ月連続で財政黒字達成 経済相が見

ワールド

トランプ氏、AUKUSへの支持示唆 モリソン前豪首
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 7

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中