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「尊厳死」法制化で悩む日本、高齢化と財政難が拍車

超高齢化社会へ入り「自分らしい最期」を選ぶための環境整備が進む

2016年4月3日(日)19時50分

3月31日、定年退職した元航空会社職員、丹澤太良さんにとって、84歳の母親が迎えた安らかな死は自分自身の終末の姿を考える重い体験でもあった。写真は2006年、都内で撮影(2016年 ロイター/Yuriko Nakao)

 定年退職した元航空会社職員、丹澤太良さんにとって、84歳の母親が迎えた安らかな死は自分自身の終末の姿を考える重い体験でもあった。

 悪性リンパ腫として限られた余命を宣告された母親は、診断を受けた病院を出て介護施設に移った。延命治療は拒み、痛みを緩和する措置だけを受けながら、静かに息を引き取った。

「(母の死は)まだ早いと思っていたが、同時にこういった死に方もあると思った」と68歳の丹澤さんはロイターに語った。

 その後まもなく、丹澤さんは自分自身の「リビング・ウイル」(遺言書)を作成し、病気や事故などの結果で死期が迫ったり、植物状態になったりした場合でも延命措置は望まないと明記した。

「死のありかた」へ高まる関心

 尊厳死の選択を宣言する「リビング・ウイル」。日本は世界でも最も速いスピードで高齢化が進む国のひとつだが、丹澤さんのように、意に反した延命措置を拒み、自ら望む終末期の姿を生前に書き残す人はまだ少数派だ。カリフォルニアやカナダ、ベルギーなどで合法化されている医師による自殺ほう助(physician-assisted suicide、PAS)だけでなく、「リビング・ウィル」に関しても、日本では何の法律も整備されていない。

 しかし、団塊世代の高齢化が進み、死のあり方への関心が高まる中で、延命拒否をタブー視する伝統的な考え方は少しずつ変わりつつある。テレビや新聞、雑誌、書籍などで「老衰死」が取り上げられるようになり、高齢者の間では「終活」セミナーが人気だ。医療の専門家によれば、衰弱した高齢患者への栄養チューブ利用も減っているという。

「いま考え方を見直す転換期にいると思う」と民進党の増子輝彦参議院議員は語る。医療措置によって生かされているだけでは人間としての尊厳が損なわれる。そうした考えが日本人の間で一般的になりつつあると指摘する。

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