世界一有名なドラァグクイーン、ル・ポールの唯一無二のワイドショー
More Than Putting on a Wig
――視聴者とより深いレベルでつながる特別な能力がドラァグクイーンにはある?
ドラァグとは、ウィッグをかぶって、ヒールの靴を履くことだけじゃない。地球に住む私たち人間の体験を脱構築すること。 シャーマンやまじない師、宮廷道化師、ドラァグクイーンはいずれも文化に対して深刻になり過ぎてはだめだと伝えるために 存在する。私たちには、「第4の壁(フィクションと現実世界の境界)」を壊すことができる。
第4の壁を壊せば、人間がしていることを脱構築して、よりよいものに再構築できる。地球上にいる人類としての私たちの体験に付きものの恐怖や迷信は一切抜きにして。
――ドナルド・トランプが『ル・ポール』に出演したら、何を質問する?
彼をゲストとして迎えることはないと思う。本物の会話をしたがる人じゃないから。
ドナルド・トランプは詐欺師で、ドラァグは「裸の王様」の話のように、群衆の中で「王様は服を着ていない」と声を上げる。ドラァグクイーンは真実を口にするから、詐欺師はドラァグと同じ場所にいたがらない。
――あなたから影響を受けたと語る人は数多い。あなた自身が影響を受けたのは?
私は人間の魂から影響を受ける。それが誰であっても。
子供時代に憧れたのはデヴィッド・ボウイとシェールとダイアナ・ロス。ジャッジ・ジュディ(人気裁判番組に出演する元判事)やオプラ、ジェーン・フォンダ、クインシー・ジョーンズのように真っ正直な人に影響される。転身を繰り返して、見事に生き抜いていく人たちに。
――私は『ジェシカおばさんの事件簿』の大ファンだが、あなたもそうだとか。アマゾン・プライムが初期の数シーズンしか配信していないことに、あなたも怒っている?
最初の5~6シーズンしか見られないけれど、私がどれだけ繰り返し見ているかアマゾンが知ったら、全シーズンを配信してくれると思う。
――あなたと私は似ているが、あなたの人生のほうがずっと素晴らしい。私のような普通の人間がどうやったら「人生をドラァグ・アップ」できる?
同じ質問はしょっちゅうされるし、私がドラァグをメインストリームにしたと言われる。化粧とかウィッグとか、表層的なレベルでは確かにそう。でも本物のドラァグとは、自分に対する考え、つまり「白人」「男性」といった運転免許証に掲載されるような属性を脱構築すること。内側から感じるものに基づいて自分を築き上げることができたとき、ドラァグという概念を本当に理解したことになる。
だからこそ、より深いレベルではドラァグは決してメインストリームにはならない。私たちがドラァグになれたのは、社会の一部として受け入れられなかったから。それまでに味わった感情や手にした考え方に基づいて、自分たち自身の価値体系をつくり上げるしかなかった。本気でドラァグ的存在を目指すなら信念を丸ごと再構築して、新たに築き直す必要がある。
――『ル・ポールのドラァグ・レース』では、出場者が口パクで歌うコーナーが有名だ。自分のレガシーを口パクで表現しなければならないとしたら、どの曲を選ぶ? その理由は?
シェール版の「セーブ・アップ・オール・ユア・ティアーズ(涙は取っておいて)」かな。シェールはすごい歌手で、彼女の声は以前のいつよりも今がいちばんいい。この曲では数えきれないほど転調を繰り返して、歌声がどんどん高くなる。
口パクにぴったりなのはドラマチックで転調があって、歌詞がほろ苦いもの。だから「セーブ・アップ」を選ぶ。涙はそのうち必要になるから(笑)。
※9月3日号(8月27日発売)は、台湾、香港、次はどこか 「中国電脳攻撃」
特集です。台湾地方選を操作し、香港デモにも干渉した中国サイバー集団によるSNS攻撃の手口とは? そして、彼らが次に狙うターゲットは? 一帯一路構想とともに世界進出を狙う中国民間軍事会社についてもリポートします。
[2019年8月27日号掲載]