最新記事

内部告発

米検閲システム「プリズム」を暴露した男

グーグルやフェイスブックの個人情報を収集して監視する米政府の秘密が明るみに

2013年6月11日(火)17時45分
ライアン・ギャラガー

渦中の人 アメリカ政府に追われる立場になったスノーデン Ewen MacAskill-The Guardian-Handout-Reuters

 アメリカ政府が米情報機関の国家安全保障局(NSA)を使ってネット上の個人情報にアクセスしている──先週、英ガーディアン紙と米ワシントン・ポスト紙がこのスクープを報じると、大きな衝撃が走った。だが、事態はその後、さらに異例の展開をみせている。

 両紙に情報をリークした人物が、自ら名乗り出たのだ。その人物とはエドワード・スノーデン(29)。コンサルティング会社の契約社員としてNSAのハワイ支部に4年間勤務したセキュリティー担当者で、CIA(米中央情報局)で働いていたこともある。

 スノーデンはガーディアン紙の取材に対し、情報をリークしたのはNSAによる個人情報の極秘調査が「民主主義への脅威」だと確信しているからだと発言。リークする前にNSA内部で「職権乱用」に異議を唱えたが、無視されたという。

 スノーデンによれば、NSAは「あらゆる人々の通信をターゲットにして」おり、彼自身にもすべてのアメリカ人の通信を盗み見るけ権利があったという。「私は席に座っているだけで、あらゆる人の情報を盗み見ることができた。あなたでも、あなたの会計士でも、連邦判事でも。そして、大統領であっても」

 スノーデンのリーク情報に基づいて、ガーディアンとワシントン・ポストはこの数日、スクープを連発してきた。まずガーディアンが、NSAが極秘の令状によって、米通信大手ベライゾンに全顧客の通信記録を提出するよう義務付けていたと報道した。その後、この監視プログラムは7年前から行われており、同じく通信大手のAT&Tとスプリント・ネクステルの顧客も対象だったことが明らかになった。

 続いて両紙は、NSAがPRISM(プリズム)という暗号名のインターネット監視システムによって、マイクロソフトやヤフー、グーグル、フェイスブックなどのサーバーからユーザーの電子メールや写真、利用記録などの情報を収集していたと報道。さらに、バラク・オバマ大統領がアメリカのサイバー攻撃の「標的」となる国外の人物をリストアップするようNSAに要請していたことも暴露した。

 さらにガーディアンは、世界のコンピュータ監視システムをトラッキングする極秘ツールをNSAが保持していることも明かした。「無限の情報提供者」と名付けられたそのツールに関する文書には、3月だけで「世界中のコンピュータネットワークから97億件」という膨大な情報をNSAが収集した経緯が記されている。

危険を冒した内部告発の理由

 一連のリークによって、スノーデンは20万ドルの年収も家族や恋人との平穏な生活も失うことになる。それでも告発したのは「アメリカ政府が秘密裏に構築した巨大な監視体制によって、世界中の人々のプライバシーとインターネット上の自由、基本的人権が破壊されていることに良心がとがめた」からだという。

 先週末まで香港のホテルに身を隠していたスノーデンは、CIAに居場所を特定されたり、米政府の依頼を受けた香港マフィアに誘拐される事態を恐れ、既にチェックアウトした模様だ。その後の所在はわかっていない。身の危険を感じながらも名乗り出たのは、情報をリークした理由を世間の人々に説明する責任があると感じたから。「政府は許されるべきでない権限を行使している。それを誰も監視できていない」
  
© 2013, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ一時初の4万ドル台、利下げ観測が

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、4月輸入物価が約2年ぶりの

ビジネス

中国の生産能力と輸出、米での投資損なう可能性=米N

ワールド

G7、ロシア凍結資産活用巡るEUの方針支持へ 財務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 3

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃のイスラエル」は止まらない

  • 4

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 5

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 6

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 7

    2023年の北半球、過去2000年で最も暑い夏──温暖化が…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    仰向けで微動だにせず...食事にありつきたい「演技派…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中