最新記事

セキュリティ

韓国、マップアプリからAIチャットまで1120万人超の個人情報ダダ洩れの恐怖 

2021年2月1日(月)20時00分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネーター)

そして同じく15日、Kakaoは別件の個人情報流出問題に巻き込まれていたことが報道された。

AI開発会社SCATTER LABが、昨年12月23日に発売した自動AIチャット「イルダ」は、20歳の女子大生という設定のAI「イルダ」との会話を楽しむサービスとして80万人以上の人が利用していたが、開始からわずか1週間でサービスを終了することが発表された。

実は、このAIチャットのイルダを開発する過程で、恋愛分析アプリ「恋愛の科学」利用者のKakaoTalkでの恋愛会話データが無断利用されていたことが発覚したのだ。

恋愛相談アプリなどで620万人のKakaoTalkを収集

SCATTER LABは約100億件の会話の中から1億件の会話を選りすぐってデータベースを作ったと公表されているが、会話データを開発に用いる際、自社の「恋愛の科学」アプリ利用者と、その会話の相手である恋人に個人情報の利用同意など一切せずに、データをイルダの資料として利用していた。

「恋愛の科学」は男女間のKakaoTalkのやり取りを入力すると、恋愛のアドバイスをしてくれるサービスアプリとして人気が高く、250万人が利用したと言われる。同社はこのほかのアプリも含め実に620万人のアプリ利用者が投稿したKakaoTalkのやり取りを無断でAIアプリ「イルダ」のビッグデータに流用していたという訳だ。

しかも匿名化や非識別化をきちんと行っていなかったため、イルダの会話のなかに資料にした人びとの個人名や住所、さらには銀行口座まで出てきた点が問題視されている。

SCATTER LAB関係者は、後にMBCラジオ「キム・ジョンべの視線集中」に出演した際、「個人情報収集と利用などに関して法律検討をしたが、法的に大きな問題にならないと聞いていた」と認識の甘さを語っている。

さらにSCATTER LABは、完全に匿名化してないデータをソフトウェア開発のプラットフォームサイトであるGitHabに共有した事実も確認されている。また、スタッフの中には、恋人たちの会話を冗談半分に無断で社内共有した疑いもあるという。

現在SCATTER LABには、韓国個人情報保護委員会と韓国インターネット振興院から調査が入っている。終了次第イルダのデータベース、そして人間の脳でいうと中枢神経にあたるディープラーニングモデルを破棄すると発表している。

被害者が集団訴訟を予定、裁判所に証拠保全求める

しかし、それだけでは会話を利用された利用者たちの怒りは収まるはずはない。共同訴訟プラットフォーム「화난사람들(怒れる人々)」では、KakaoTalkの会話を無断利用された可能性のある被害者を募集し、集団訴訟の手続きを始めた。すでに約400人もの人が参加の意思を表明しているという。

被害者たちは、SCATTER LABが調査直後に全ての証拠を破棄してしまう可能性を考慮して、ソウル東部地裁に証拠保全申請書を提出した。まずは政府の調査結果を待ち、それに合わせて損害賠償請求訴訟をする予定であるという。

ネット社会になりどんどん便利な世の中になっていく一方で、気づかないうちに自分の情報が抜き取られている。まさか、恋人との愛のささやきが、AIの開発に無断で使用されているなんて誰も思っていなかっただろう。サービスを提供する企業側には個人情報の取り扱いに十分気を付けてほしいが、やはり利用する個人が意識を引き締めていかなければならないのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロ中、ガス輸送管「シベリアの力2」で近い将来に契約

ビジネス

米テスラ、自動運転システム開発で中国データの活用計

ワールド

上海市政府、データ海外移転で迅速化対象リスト作成 

ワールド

ウクライナがクリミア基地攻撃、ロ戦闘機3機を破壊=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中