最新記事

技術革新

【間違いだらけのAI論】AIはなぜ経済成長をもたらしていないのか?

AI BENEFITS STILL TO COME

2018年12月11日(火)20時05分
エドゥアルド・カンパネラ(スペインIE大学フェロー)

彼らが全米経済研究所に掲載した論文で指摘したように、いわゆる汎用技術にはこれが当てはまる。新たなテクノロジーや補完的な革新(有形・無形を問わず)は十分に蓄積されて初めて、それが数字に表れるもので、通常それには少なくとも四半世紀かかる。

そして経済学者のボヤン・ヨバノビッチやピーター・ルソーが指摘するように、汎用技術の革新は普及した後も継続的に改善され、さらなる革新を生み出す。こうした革新が19世紀以降の経済革命を駆り立ててきた。

1790年代から1820年代にかけての産業革命の「第1波」の推進力となったのは蒸気機関だ。1890年代から1930年代までの「第2波」を促したのは電気だった。

そして1970年代に始まり「第3波」をもたらしたのがIT(情報技術)であり、インターネットの普及を経て、現在の「第4波」につながった。この第4次産業革命の主な推進力こそがAIだ。それはロボットを賢くし、ビッグデータの利用を可能にし、どんな製品もカスタマイズでき、どんなに精密な製造工程も監督できる。

その名のとおり、汎用技術の使い道はいくらでもある。だから、その本格的な導入には長い時間がかかる。例えば、製造業における動力源としての電気が蒸気機関を超えるには20年以上かかったし、家庭にまで普及するには40年近くかかった。

当然だろう。誰もが電気を使えるようにするには、国家が送電網を整備し、起業家が電球や電線、スイッチなどの周辺機器を発明し、官僚が電圧の基準やプラグの形を決める必要があり、産業界が便利な家電製品を次々と売り出さねばならなかった。

現代のIT技術の歩みも同じだった。それらを応用した機器が資本ストックの1%を上回るまでに約20年を要した。その後、1991~2001年の間に5%になり、2008年には8%となって、それ以後はほぼ横ばい状態だ。

AI革命が始まったのは2011年。IBMのスーパーコンピューター「ワトソン」がテレビの人気クイズ番組『ジェパディー』に挑戦し、賞金100万ドルを獲得した時だ。次に注目を浴びたのはその5年後で、グーグル系のディープマインド社が開発したプログラム「アルファ碁」が、世界最強の棋士といわれる韓国のイ・セドルに勝利した。その後、皮膚癌の分類や言語認識などに進歩をもたらしたが、AI関連の業績は大手のIT企業やこの分野に特化した新興企業にほぼ独占されている。

ヨバノビッチとルソーは電力とITの生産性に共通のパターンを見いだしている。どちらの場合も、新たな汎用技術の登場から最初の25年間は生産性向上ペースが鈍かった。その後の10年間に加速して約4%の伸びを達成し、その後は再び鈍化して約1%になった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中