最新記事

海外ノンフィクションの世界

アベンジャーズ生みの親スタン・リーの生涯 「私は売文ライターだった」

2019年4月25日(木)10時55分
高木 均 ※編集・企画:トランネット

2013年、ハリウッドで行われた『アイアンマン3』のワールドプレミアに駆け付けたスタン・リー Mario Anzuoni-REUTERS

<スパイダーマンやアイアンマン、ファンタスティック・フォーを生み出した伝説的ライターにして名編集者のスタン・リー。昨年11月に亡くなったが、そのキャリアは謎に包まれているところが多い>

スパイダーマン、アイアンマン、ハルク、マイティ・ソー、X-メン、ファンタスティック・フォー......。今やポップアイコンともなったスーパーヒーローたちの生みの親であるスタン・リーが、2018年11月、95歳で逝去した。

リーはマーベルコミックの筆頭ライターとして次々にヒットキャラクターを生み出しながら、名編集者としても八面六臂の活躍をした。一般的にアメリカンコミックでは、まずライターが台本を書き、それに従ってアーティストが作画するという作業プロセスを取る。しかしリーは、おおまかなプロットだけ設定した後はアーティストの裁量に任せ、出来上がってきた作画のフキダシにせりふを書き込んでいくという独自の手法を編み出した。後にこの手法は「マーベル・メソッド」と呼ばれて広まっていく。

二流コミック出版社だったマーベルを大手のDCコミックをも凌駕する会社にまで躍進させたスタン・リーは「マーベルの顔」そのものであり、アメコミファンにとっては彼の創造したスーパーヒーローたちと並ぶ英雄だった。

その伝説的な存在にふさわしく、リーのキャリアは謎に包まれているところが少なくない。だが『スタン・リー:マーベル・ヒーローを作った男』(筆者訳、草思社)の著者ボブ・バチェラーは、現存する資料を最大限に駆使しながら、貧しいユダヤ人一家に生まれた「スタンリー・マーティン・リーバー」という名の少年が、その後「スタン・リー」を名乗り、アメリカのポップカルチャーに君臨していくさまを、リーの生きた時代背景とともに描き出そうと試みている。

リーが少年期を過ごしたのは世界大恐慌の真っ只中であり、バチェラーによれば、そのときに味わった赤貧の苦労が後々まで彼の行動を支配することになったという。ライターとしてのキャリア初期、売れてカネになるなら他社のヒット作の猿真似も辞さず、あらゆるジャンルのコミック原作を書き飛ばしていたリーは、後にその頃のことを「自分ほど金のために書きまくった売文ライターはいない」と振り返っている。

コミック黎明期のこの時代、世の中にはまだコミックライターという職業を軽んじる風潮が色濃くあった。出版社はリスクを恐れて流行りのジャンルのものだけを作るようライターに強いていたが、子供だましのコミックを書き続けることに限界を感じたリーは、会社の意向に逆らって自分の書きたいもの、自分が面白いと思うものを書く決心をする。

リーにとって大きな賭けだったこの作品――「ファンタスティック・フォー」――は大ヒットし、これに自信を得たリーは、以降怒涛の勢いで次々に綺羅星のようなキャラクターを世に送り出していく。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米金融当局、銀行規制強化案を再考 資本上積み半減も

ワールド

北朝鮮、核抑止態勢向上へ 米の臨界前核実験受け=K

ワールド

イラン大統領と外相搭乗のヘリが山中で不時着、安否不

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中