最新記事

銀行

HSBC秘密口座で世界に激震

脱税幇助の実態を記した機密文書「スイスリークス」が明らかに

2015年2月19日(木)16時28分
オーウェン・デービス

黒い口座 取引先には武器商人や紛争鉱物のディーラーも Suzanne Plunkett-Reuters

 英金融大手HSBCが、顧客情報に関する秘匿性の高さで知られるスイスの銀行制度を利用し、超富裕層や武器商人などに秘密口座を提供して利益を得ていた──そんな驚きの事実が先日、明らかになった。ワシントンを拠点とする国際調査報道ジャーナリスト連盟(ICIJ)が公表した機密文書、いわゆる「スイスリークス」によれば、不正が疑われる口座の残高は1200億ドル近くで、その大半は脱税によるものだった。

 HSBCのプライベートバンキング部門は、個人の顧客を企業として登録するなど、国際税法の抜け穴をくぐり抜けるサービスを提供して超富裕層の顧客を獲得してきた。脱税を幇助するため、未申告の「ブラック口座」を開設していた疑いも持たれている。顧客側も偽名の使用を銀行に指示するなど、資産隠しに積極的に関与していた。

 88〜07年の顧客名簿に載っている顔触れは、ティナ・ターナーやデビッド・ボウイといったアーティストから、企業の役員や国際的な指名手配犯、王族、政治家など10万人以上で、国籍は200カ国以上に及ぶ。武器の密売人、紛争鉱物や紛争ダイヤモンドのディーラーもいる。公的資金を使い込んだ罪で有罪判決を受けたラシド元エジプト通産相は、3100万ドル相当の口座を管理していた。

 情報をリークしたのは、HSBCの元従業員でコンピューターシステムの専門家のエルベ・ファルチアニ。08年にファルチアニから通報を受けたフランス当局はデータを各国に提供し、米国税庁など10カ国以上の税務当局が捜査に乗り出している。

 HSBCは12年にも、メキシコの麻薬カルテルなどの約20億ドルに上るマネーロンダリング(資金洗浄)に関与し、米司法省と和解している。今回の件で同社は、「コンプライアンス(法令遵守)と資産査定の基準が著しく低かった」と認めた。ただし、個々の顧客についてはノーコメントを貫いている。

[2015年2月24日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

株式・債券ファンド、いずれも約120億ドル流入=B

ワールド

中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入

ビジネス

アングル:米ダウ一時4万ドル台、3万ドルから3年半

ワールド

北朝鮮、東岸沖へ短距離ミサイルを複数発発射=韓国軍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中