コラム

「悪いのは中国」米無党派層の恨みがトランプ再選を後押しする

2020年05月13日(水)11時30分

地下室のバイデンは資金力と発信力の差を跳ね返せる? SCOTT OLSON/GETTY IMAGES

<失敗続きの新型コロナ対策で非難を浴びても大統領選への影響が大きくない理由>

大統領選の本選挙まであと半年。4月末の世論調査の支持率では、民主党のバイデン前副大統領が共和党のトランプ大統領を6ポイント上回っている。選挙の半年前の時点でこれほど大きな差がつくのは異例のことだ。

ところが、選挙結果を予想する賭けでは、トランプのほうが6ポイントリードしている。この2つの数字の乖離に、今年の大統領選の状況がよく表れている。現状の支持率ではバイデンが大きくリードしているが、自分の金を賭ける人たちはトランプの勝利を予想しているのだ。

その理由の1つは、資金力の差だ。トランプ陣営が確保している選挙資金は、バイデン陣営を2億ドル上回る。

トランプ陣営は、1000万ドルをつぎ込んで全米で広告キャンペーンを行い、バイデンが中国に──新型コロナウイルスの発生源である中国に──甘いというイメージを植え付けようとしている。トランプは、自らをウイルスと戦う「戦時大統領」と位置付けるだろう。現代アメリカ史上、大きな戦争を戦う大統領が再選に失敗したことはない。現職大統領の発言に一層注目が集まるからだ。

それに対して、バイデンは自宅の地下室からメッセージを発するくらいしかできない。ソーシャルディスタンス(社会的距離)の時代にトランプもお得意の大規模政治集会は行えないが、ツイッターのフォロワー数はバイデンの15倍に達している。

しかも、バイデンにとって苦しいのは、共和党支持者だけでなく、多くの無党派層も「悪いのは中国だ」というストーリーを信じていることだ。アメリカで新型コロナウイルスによる死者がさらに増えれば、中国批判を展開するトランプへの追い風が強まるだろう。

バイデン自身をめぐるスキャンダルもくすぶっている。タラ・リードという女性が90年代前半にバイデンから性的暴行を受けたと主張しているのだ。バイデンはリードの主張を否定したが、民主党支持者の25%は、大統領選の民主党候補を別の人物に変更したいと述べている。ちなみに、トランプ支持者の中で、投票する候補者を変更する可能性があると述べている人は17%にすぎない。

景気後退時の大統領選では現職大統領が勝てない、というのがアメリカ政治の鉄則の1つだ。しかし、近年のアメリカは政治的な二極化が加速している。トランプの新型コロナウイルス対応を支持する人の割合は、CNNを見ている人の間では7%に過ぎないが、FOXニュースを見ている人の間では63%に上る。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大統領選、バイデン氏とトランプ氏の支持拮抗 第3

ビジネス

大手3銀の今期純利益3.3兆円、最高益更新へ 資金

ワールド

ニューカレドニアの暴動で3人死亡、仏議会の選挙制度

ワールド

今年のユーロ圏成長率、欧州委は2月の予想維持 物価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story