コラム

一匹狼のトランプでも、G7サミットはぶち壊せない

2018年06月23日(土)15時00分

今回のサミットでG7首脳はトランプ(右端)に振り回されっぱなしだった Jesco Denzel-Bundesregierung-REUTERS

<米朝首脳会談で金正恩に会うためにそそくさと閉会前にG7サミットを退席――トランプは民主国家の絆をむしばむのか>

世界の有力指導者の集まりで際立つのは、それぞれの人柄。この事実を裏付けるのが、「一匹狼」トランプ米大統領だ。

6月8~9日、カナダのケベック州でG7サミットが開催された。メディアはこの主要7カ国首脳会議の枠組みは崩壊寸前だと伝え、トランプが閉会直後にカナダのトゥルドー首相と同国の乳製品の関税を稚拙なツイートで非難したことを面白おかしく書き立てた。

しかし今までG7は、経済・外交の分野で重要かつ幅広い合意を生み出してきた。今回もトランプがトゥルドーをいきなり非難するまでは、スムーズに進んでいた。

G7の「真実」は過小評価されているのかもしれない。各国それぞれが問題を抱えていても、互いの絆はとても強い。G7のリーダーたちは、国内では低い支持率やポピュリスト政党の台頭、保護貿易主義への圧力といった難題に直面しているが、臆することなく実質的な政策による突破口を見つけようとし、それに向かって努力してきた。

G7の民主主義国の大半は常に圧力と問題を抱えながらも、グローバリゼーションと貿易を原動力として前進するため、権威的な孤立主義の流れに抵抗している。

しかし、ここ数年はトランプが世界中のメディアの見出しを独り占めしてきた。その大言壮語のために世間の感覚は麻痺し、世界の主要な民主主義国家の貴重な前進と勝利が見えなくなっている。アメリカ以外の6カ国が協力しているのに「トランプ劇場」のせいで、リベラルな国際秩序が崖っぷちにあるかのような印象を与えている。

喝采に酔い批判者を攻撃

トランプは同盟国のリーダーたちと個別に会談することなく、北朝鮮の独裁者である金正恩(キム・ジョンウン)に擦り寄るかのようにサミット閉会前に退席した。民主主義よりも人権抑圧の独裁主義を優先するようなこの行動に、リベラルな「国際主義者」たちは身を震わせた。

トランプはロシア疑惑の捜査中であるにもかかわらず、G7の場で「ロシアをG7に呼び戻すべき」と発言した。トランプが本当にロシアの復帰を望んでいるとしても、なぜその時と場所を選んで発言したのか。

なぜトランプはドイツのメルケル首相やフランスのマクロン大統領などと会談せず、金に会いに行ったのか。民主主義陣営のリーダーがG7を軽視し、シンガポールで世界最悪の独裁者と政治ショーを演じることが許されるのか。G7の出席者でトランプからホワイトハウスに招待されたのは、ポピュリズムを信奉するイタリアのコンテ新首相だけというのはどういうわけなのか。

G7は風前の灯火であり、トランプの言動はより大きな外交政策へのシフトのためで、いずれG7は時代遅れになるという見方が強まっている。しかしトランプの選択は計算に基づく戦略ではなく、ただ子供っぽく振る舞っているだけのことだ。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

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