コラム

大統領選でも引きずる米政治の「コロナ禍後遺症」

2024年01月17日(水)14時15分

民主党の知事としては、辞任に追い込まれたニューヨーク州のクオモ前知事の場合も、コロナ禍の問題を引きずっていると言えるでしょう。クオモは、急速に感染が拡大した2020年春に、連邦政府と掛け合って、病院船の派遣、テント村の設営、人工呼吸器の調達などを実現し、多くの救命に成功したとしています。

その際に、ベッド数を確保するために、老人福祉施設の入所者は入院させずに施設での療養としたことで、多くの死者が出たのですが、クオモは残念だが仕方がなかったとしていました。これに対して、一部の遺族の反発を政治利用した民主党内の対抗勢力が「セクハラ疑惑」を持ち出して、知事を辞任に追い込んだのでした。


この問題ですが、クオモはシングルファーザーとして3人の娘を育てていることから、若い女性に距離を置かずに話すクセがありました。クオモに政治的に共感しているうちはいいのですが、反発心をもって臨むと女性が不快感を訴えがちになる、そのような構造が理解されると、セクハラ疑惑は立ち消えとなったのです。結果的に、クオモの「痛みを伴った臨機応変なコロナ禍対応」も評価としては免罪された形となっています。クオモは、再度公職に挑戦することで、一旦は自分を追い込んだ民主党左派に対して反撃する構えです。

このように、コロナ禍とその対策の政治的評価は、今でもアメリカの政局に影響を残していると言えます。激しいインフレがコロナ対策の副作用ということも含めて、今回の大統領選はコロナ禍対策への総括という意味合いもあると思います。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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