コラム

コロナ対策の最適解を政治が示せない理由

2020年12月15日(火)13時30分

問題は、この均衡点というのは、政府が「ここです」と宣言して全体に提案し、その結果としてできたものではないということです。なぜならば、仮に日本社会が理想的な均衡点で安定していても、対策派は「死者をゼロにしなくては」と訴え続けるし、経済派は「地方経済の崩壊の危険は続いている」として人の移動を伴う規制緩和を要求するからです。

つまり国全体の利益としての均衡点というのは、対策派も経済派も同じように不安、不満、怒りを抱えた中での安定なのであり、誰もその均衡点では満足しないのであって、政府としては積極的に誘導はできない性格のものです。

今回の「Go To」のことは、アクセルを踏みながらブレーキを踏むようなものだという形容がされます。言い得て妙だと思いますが、実際にこのコロナに関する政策としては、アクセルとブレーキを同時にかけないと均衡しないのです。ブレーキだけをかけては静止して破滅するし、アクセルだけを踏んでは暴走して破滅する中では、そうするしかないのです。

ある時点から、厚労相がコロナ対策の司令塔ではなくなったこと、総理だけでななく官房長官も司令塔機能を引き受けないこと、経済担当閣僚が迷走しながらも仮の司令塔をせざるを得なくなったこと、専門家委員会を分科会に改組したこと、どれも同じ理由です。つまり政治として積極的に均衡点を示すことはできないということです。

感染対策か、経済かという反対方向の問題のバランスということでは、それでも機能していると思いますが、例えば、ワクチンの信頼を獲得して接種率を上げていくという場合には、この手法は使えません。この場合には政治には、説得力ある説明と、明確な方向性を示す責任が生じると思います。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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