コラム

大胆不敵なトランプ税制改革案、成否を分ける6つのファクター

2017年04月27日(木)15時40分

二つ目は景気です。大胆な案ですが、経済成長が着実に進めば成功する可能性はあります。しかし景気が悪化すれば税収の落ち込みは激しくなり、財政出動の余力も落ちて大変なことになります。現在のアメリカはオバマ以来の好景気が続いていますが、これが仮に調整局面に入るとして、どの程度になるかは今回の案の成否を左右する重要なファクターです。

三つ目は地政学的なリスクです。景気は循環して自然に悪化するだけでなく、地政学的なリスクでも大きく足を引っ張られます。このような大胆な財政改革を成功させるには、基本的には「平和な世界」というのが前提条件になるわけで、反対に国際社会に紛争リスクが高まるようですと成功は難しくなります。

四つ目はFRB(連邦準備制度理事会)の動きです。仮に景気の勢いが弱くなっているのに利上げを行えば、一気に市場は調整へと向かい、実体経済にもマイナスの影響が出ます。その一方で、過熱感があれば引き締めが必要で、現在は非常に判断の難しい状況に入っています。例えばですが、多少の副作用があっても、思い切った利上げをする判断があって、それで短期的に市場や実体経済が「引き締められて」しまうと、今回の税制改革の導入は難しくなります。

【参考記事】透明性に大きな懸念、情報を隠すトランプのホワイトハウス

五つ目は市場の動きです。市場の税制への反応というのは、これら多くのファクターを反映したものとなるわけで、今回の改正案に対して最終的には市場が信認するかどうかが、大きな判断要素になると思います。NY市場は小幅な下げとなりましたが、これは議会での審議が難航しそうだという観測を織り込んだものです。今後の動向を注視しなければなりません。

六つ目は世論です。今回の税制改革は「非常に簡素化された分かりやすい」ものですが、おそらく「全ての納税者に影響がある」ものです。当然、不利益を被る人も出てきます。その点で、あえて「全納税者に関心を持ってもらう」という一種の「世論への挑戦状」を突きつけた格好にもなっています。アメリカは成人した住民のほぼ100%が確定申告をする納税意識の高い社会ですが、その世論が果たして納得するのか、そこが一番のポイントになります。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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