コラム

証人喚問で共和党を蹴散らしたヒラリーの、残された「死角」とは

2015年10月27日(火)17時20分

 まず13年の公聴会とは、そのスタイルに雲泥の差がありました。当時ヒラリーは、洗練されていないウールのスーツに黒縁のメガネ、そしてポニーテールの髪型で登場し、しかも執拗な共和党の攻撃に対して感情的になる場面が見られました。そうしたシーンは何度となくニュース番組で取り上げられ、イメージダウンにつながったのです。

 一方、先週の公聴会では、フォーマルな印象の黒のスーツで決めると同時に、髪は短く切ってメガネを外し、ナチュラルなメイクにしています。さらに威風堂々とした威厳のある振る舞いが印象的でした。

 何よりも成功していたのは、感情のコントロールを完璧に行ったことでしょう。相手が怒りを見せて追及をしてくると、反対に微笑みを浮かべて相手の怒りを受け止める一方で、答弁に関してはひたすら慎重かつ低姿勢で一切スキを見せなかったのです。

 その上で、ヒラリー氏は「今回のスチーブンス大使以下の死の責任は自分にある」とハッキリ述べ、「自分はこの一件に関しては、この場にいる全部の人間を合計したよりもずっと長い時間、眠れない夜を過ごした」という言い方で、当事者意識を明確にしつつ、パーソナルな責任感も表明したのです。これは効きました。

 もちろん、共和党の中にはまだまだ「アンチ・ヒラリー」は多いわけですが、これで民主党支持層と中道層の相当な部分については、「メールサーバ疑惑」以来、彼女に抱かれていた疑念は解消されたと見ていいでしょう。ヒラリーの支持率は、今月13日のテレビ討論の成功を受けて上昇に転じており、最悪の時期には40%前後だった支持率が48%程度にまで上昇していました。先週の公聴会を受けておそらく60%近いところまで上がったのではないかと思われます。

 一方で、この公聴会の前日21日にジョー・バイデン副大統領は「大統領選に出馬しない」と表明、また大統領選に名乗りを上げていた中道や党内右派の「泡沫候補」たちも続々撤退を表明しています。

 結果として、現時点では民主党の大統領候補選びは、事実上ヒラリーとバーニー・サンダース上院議員の一騎打ちになっています。順風満帆になってきたヒラリー陣営ですが、ここに少し問題があるように思われます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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