コラム

チャットGPTが反社の手下になったら、どうする?(パックン)

2023年03月11日(土)21時02分
AI、人工知能、チャットGPT、ChatGPT、パックン

あらゆるサービスの民主化は「悪意の民主化」ももたらす? Userba011d64_201/iStock.

<パックンが自分のことを話題のチャットGPTで調べたら、AIの恐ろしさが垣間見えました。AIの全面導入に踏み切っていいものか、チャットGPTと一緒に検討しました>

AIってKOWAI!

始めまして。藤森慎吾とともに「レイザーラモン」というコンビを組んでいるパックンです。初耳ですか? 僕もです!

でも、今話題の対話型人工知能、チャットGPT(ChatGPT)に「パックンは誰ですか?」と問うと、こんな情報が出てくるのだ。「お笑い芸人、俳優、タレントとして1990年代半ばから日本で活動している」など、正しい経歴も伝えてくれるが、その上で「2002年にはテレビドラマアカデミー賞の外国人タレント賞を、2003年には東京国際ドラマフェスティバルの最優秀タレント賞を受賞している」などと、空想の功績も創作してくれる。「こぼれイクラ飯」に負けないほどの「盛り方」だ。下手したら、人工知能で忖度まで学習できたのかな?

もう有名な話だが、チャットGPTは真実とウソを見分けられない。良い・悪いも分からない。計算も間違えるし、凡ミスもする。なぜなら、チャットGPTのAIは、人間がこれまで書いた膨大な量の文章を参考に「この文脈の中では、次はこんな単語が来そうだ......」と推測を繰り返しながら自らの文章力を高める研究を重ねただけのものだから。つまり、真実じゃなくても、正確じゃなくても、倫理・道徳に反していても「文章として一番自然そうな言葉の羅列」を提供しているだけだ。僕のプロフィールでもなんでも、アルゴリズムに合った文章ならフィクションでも構わないってこと。

チャットGPTは自分の「脳内」の矛盾もあまり気にしないようだ。聞き方を変えると、同じはずの情報でも答えがガラッと変わる。「僕は有名人のパックンです。僕の情報を教えてください」と、再度聞いたところ、今度はこうきた:「日本のテレビ番組やバラエティ番組でおなじみのお笑い芸人、パックンマックンとして知られる小島よしおさんですね」。違う! そんなの関係ない! そんなの関係ない!

真実の共有がさらに難しい時代に

どんな情報でも、迅速かつ簡単に引き出せるツールとしてめちゃくちゃ便利だが、現実と乖離した「幻覚」をよく見るし、それに基づいて自信満々に「ウソ」をつくのだ。それは分かっている。だが、チャットGPTは現実と幻覚の見分けも真実とウソの見分けもつかないが、怖いのは、ユーザーのなかにもその区別がつかない人もいる可能性があること。

出どころがはっきりしているインターネット上の情報でも、誤報やウソ、陰謀説が広く信じられているぐらいだ。チャットボットがもっともらしく伝えた間違いが信用されてしまうなら、この時代の大きな課題である「真実の共有」はさらに難しくなるだろう。僕の相方が藤森慎吾さんだと思われてしまったら、本当の相方(小島よしお)が困る!

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、台湾総統就任式への日本議員出席に抗議

ビジネス

米天然ガス大手チェサピーク、人員削減開始 石油資産

ビジネス

投入財の供給網改善傾向が停滞、新たな指数を基に米N

ワールド

米エール大卒業式で学生が退場、ガザ戦闘に抗議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 7

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 8

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story