コラム

話題の「YA論文」が見落とすトランプ外交のお粗末さ

2020年07月30日(木)18時00分

実はYA論文の中にその答えがある。「このチャレンジに対応する最も効果的なやりかたは、アメリカの同盟国とパートナーを団結させ中国の問題行為に対抗することだ」と。

ここがトランプのもっとも手痛い失敗だ。就任直後からアメリカのパートナーを突き放している。中国だけではなく、強硬な貿易交渉を日本や韓国、EU、カナダ、メキシコなどの同盟国にも持ち掛けた。日米だけではなく、日韓やNATOの軍事同盟からの離脱をほのめかした。他の加盟国の反対を押し切り、イラン核合意やパリ協定、TPPから離脱した。ロシアの復帰を要求したり、新型コロナウイルスを「チャイナウィルス」と呼ぶように求めたりしてG7の分裂を起こした。こんな味方同士の大乱戦を演出するのは、プレジデントではなく、プロレスのプロデューサーのような仕業だ。トランプは転職したのを忘れたのかな。

さらに、トランプはWTO、WHO、UNESCO、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)などの国際機関への資金提供を停止したり、離脱を発表したりしている。当然、国際社会に「真空状態」ができる。そして、その穴を埋めるのは中国だ。牽制どころか、むしろ中国の影響力拡大を助長しているようだ。例えば先日の国連人権理事会では、香港国家安全維持法に関して各国の意見が分かれた。日本やヨーロッパ諸国など27カ国が「強い懸念」を表明したのに対し、中国への「支持」を表明したのは53カ国。サウジアラビアやイラクなど、アメリカの同盟国も含めてだ。なんでアメリカは反対意見を固めて中国に対抗できなかったか? 2018年に人権理事会から離脱したからだ。

リングに入っていないと戦えないよ。プロレスプロデューサーの常識を忘れたのか?

YAさんが引用した対中政策の著者は......

アメリカの友達は離れ、トランプの「親友」は安倍さんしかない。いざというとき、一緒に戦う「戦友」は果たしているのか。YA論文もアメリカが求心力を失ったことを認める。それでも「トランプ以前の世界に戻るのか?」と自問して、Noと自答する。

あなたならどう答える?

よく首相と電話してゴルフをやる、孤立した「アメリカファースト」の大統領。

それとも、首相とビジネスライクな関係を持つ、強い味方がたくさんついている、仲間含めての「アメリカ達ファースト」の大統領。

日本にとってどちらがお得だろうか?

ちなみに、論文の勧める対中政策は「アメリカの同盟国とパートナーを団結させ中国の問題行為に対抗すること」だが、これは外交専門誌に載ったエッセイをYAさんが引用したもの。その著者は、オバマの副大統領を務めた民主党のジョー・バイデン大統領候補。ご参考までに!

あともう一つ、アメリカでのコロナ感染者は440万を、死亡者は15万人を超えていることも忘れないでおこう。

残念ながら、日本の皆さんは次期大統領を選ぶ権利はないが、願うことは自由だ。どうぞお祈りください。

<関連記事:劣勢明らかなトランプに、逆転のシナリオはあるのか?

【話題の記事】
・新型コロナウイルス、患者の耳から見つかる
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・がんを発症の4年前に発見する血液検査
・韓国、コロナショック下でなぜかレギンスが大ヒット 一方で「TPOをわきまえろ」と論争に


20200804issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年8月4日号(7月28日発売)は「ルポ新宿歌舞伎町 『夜の街』のリアル」特集。コロナでやり玉に挙がるホストクラブは本当に「けしからん」存在なのか――(ルポ執筆:石戸 諭) PLUS 押谷教授独占インタビュー「全国民PCRが感染の制御に役立たない理由」

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story