コラム

パックン、「忖度の国」日本のお笑いを本音で語る

2018年05月10日(木)17時59分

<一発芸や漫才など「センスの結晶化」は欧米に劣るのか? 「コメディー」の頂点アメリカから来たパックンが、日本のお笑い、そして社会風刺が日本に生まれない理由を考える。本誌5月8日発売号(2018年5月15日号)「『日本すごい』に異議あり!」特集より。同特集では、日本が本当に輝くための6つの処方箋を知日派らが提示する>

日本はすごいのか?

100%の確信を持って「すごいです」と答えよう。とりあえず即答だ。

なぜなら、「すごい」という言葉は褒め言葉でもけなし文句でも使えるから。例えば「経験も知識もないのに米大統領に当選したドナルド・トランプってすごいよね!」と言うと、褒めていることになるが、「経験も知識もないのに勉強しないトランプってすごいよね」と言うと逆のニュアンスだろう。

そういう意味で、日本はどの分野でも「すごい」と言えよう。すごく便利だね、「すごい」という単語は。

さて日本のお笑いだが、これはどちらの「すごい」に当たるだろう。

まず、告白させてください。これに関して、この数年で僕の意見は変わったのだ。多くの外国人同様、初めて見たときは日本のお笑いの面白さが全く分からなかった。「スリッパで頭をひっぱたくだけで笑いがとれるこの国ってすごいね〜」と、軽く蔑視していた。

「コメディー」の頂点、アメリカから来た僕にとって、「お笑い」が解せなかった。一発ギャグもそう。リズムネタもそう。熱湯風呂に入ったり、熱々のおでんを食べたり、乳首を洗濯挟みで挟んだりするだけで笑いをとる「リアクション芸」もそう。どれもさっぱり分からなかった。ダチョウ倶楽部さん、ごめんなさい!

漫才の面白さもさっぱりだ。日本の芸人は、スタンダップコメディアンのように1人だけで笑いはとれないのか? ツッコミ役のしつこい説明がないと観客はついていけないのか? それから笑いをとるボケ役と、単に突っ込むだけのツッコミ役のギャラって同じなのか? もう、訳が分からない!

自国の芸風と異なる点を全部否定する、このうぬぼれっぷりも「アメリカ人ってすごいな」と振り返って思うところだが、実は僕が芸人を目指すことにしたのは、日本のお笑いをなめていたからでもある。しかし、やってみると......目からうろこ! 思った以上に、日本で笑いをとるのは難しい。スリッパたたきは技術のたまものだ! 一発ギャグはセンスの結晶だ! ダチョウ倶楽部さん、超天才!

漫才の魅力も徐々に分かってきた。ボケを解説してくれるツッコミ役がいるおかげで、1人だけでは通じないマイナーな題材も、微妙な物まねも、細かいボケも生きてくる。2人なら演じられる設定も増え、2人のやりとりで生まれる特別なマジックもある。漫才スタイルって素晴らしい! ギャラの折半はいまだに納得いかないけど......。

技術や芸風として、日本のお笑いの「すごさ」は理解できるようになったが、ずっともどかしく感じている面もある。それはネタの禁止区域の広さ。欧米の笑いは人種や宗教の違いや下ネタなどを題材にするものが多いが、これはどれも日本で使えない。もちろん、民族や宗教の多様性が少ない、上品な国民だからウケないだけの話かもしれない。下ネタが嫌いじゃない僕にとっては少し悲しいが、仕方がない。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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