コラム

安心ばかりを求める社会は滅亡する

2020年03月13日(金)15時15分

リスクに目を閉ざしひたすら安心を得ようとする社会は危ない Ca-ssis-iStock.

<ひたすら安心を追い求め、そのためにリスクを過小評価したりその反動で過大評価する非合理的な行動は、人類を滅亡させかねない。歴史と行動経済学は教えている>

新型コロナ肺炎騒ぎは、世界中のものとなった。欧米の人々は、中国、韓国、日本のものだと傍観していた。あるいは、日本の愚かさをせせら笑っていた人もいたし、正義感か商売なのか、日本の対応の拙さを徹底批判していたメディアも多かった。しかし、そのウイルスが、自分たちの身の回りに飛び火した途端、うろたえ、日本の愚かさと少なくとも同じ程度に愚かにパニックになっている。

彼らの愚かさを批判するつもりはない。当初はリスクに対して過少反応、その微小なリスクを自分の都合に合わせてゼロと解釈し、次にその微小をゼロと無視し続けられなくなった瞬間に、その微小確率を異常に過大評価するのは、金融市場でも日常生活でも日常茶飯事だし、とりわけ、金融危機や災害などの危機のときにはパニックとなり、それが何十倍ものひずみとなって、拡大された愚かさとして社会に現れるのは、人類の歴史そのものでもある。

そうなのだ。これで人類は滅びる可能性がある。

大袈裟に聞こえるだろうが、そうでもない。千年タームで考えれば可能性は十分にあり、少なくとも無視するべき微小確率ではなく、確実にあり得る可能性だ。

なぜか。

安心ばかり求めるコスト

人々は安心を求めている。危機に直面したときはなおさらである。その恐怖感を打ち消し、そこから開放されるためならどんなコストも省みない。それは現実逃避のときもあるし、過剰反応でまったく必要のない撲滅運動に発展するときもある。

魔女狩りなどと物騒な言葉を使うまでもなく、異常な抗菌趣味で抗菌消しゴムまでが流行る日本であるから、これは日常茶飯事だ。津波が襲った後は、巨大な防潮堤作りに必死となり、津波以外の災害に対する対応が手薄になる。放射能に怯える余り、科学的に十分安全だった除染の基準を無駄に引き下げ、除染した土の持って行き場に困り、無駄に金を使い、結果どこも安全にならない。子供たちは、必要以上に屋内に閉じ込められ、精神的な安定性を失い、バランスからすれば被害は拡大した。農作物や魚の風評被害についてはいうまでもなく、僅かな安心を得るために、不必要に避けることにより、多くの地域の農業を苦しめた。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

重大な関心持って注視=ICCによる逮捕状請求で林官

ワールド

ロシアのガス生産量、1─4月に8%増 石油は減少

ビジネス

為替円安、今の段階では「マイナス面が懸念される」=

ビジネス

AI集約型業種、生産性が急速に向上=PwCリポート
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 10

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story