最新記事
シリーズ日本再発見

居酒屋のお通し(=強制的な前菜)には納得できない!?

2017年03月10日(金)16時07分
高野智宏

Sean_Kuma-iStock.

<訪日外国人観光客の増加につれ、クローズアップされる「お通し」トラブル。「なぜ払わなければいけないのか!?」という不満の声は、実は外国人だけでなく日本人からも上がっている>

【シリーズ】外国人から見たニッポンの不思議

ビザの緩和や免税制度の拡充を背景に増加し続ける外国人観光客。2016年の訪日外国人観光客数は前年比21.7%増で2400万人を突破し、4年連続で過去最高を更新するなど、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、さらなるインバウンド市場の拡大を期待する業界も多いことだろう。

訪日の大きな目的である「グルメ」を提供する飲食業界もそのひとつ。近年では、よりネイティブな食文化を楽しみたいと、ガード下や横丁の焼き鳥屋や居酒屋で夕食を楽しむ外国人も増えている。

【参考記事】訪日外国人の胃袋をつかむ「食」のマッチングサービス

そんな居酒屋でいま、客である外国人とのトラブルが多発しているという。居酒屋をはじめ、主に酒類を提供する日本の飲食店特有のシステムである「お通し」に関するいざこざだ。

昨年末、沖縄の地元紙「琉球新報」が報じたところによれば、外国人観光客向けに沖縄観光をサポートする沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)には、居酒屋などのテーブルチャージやお通し代など、メニューに表示がない料金の請求に困惑する外国人から質問が寄せられており、同センターが詳細を確認して店側が非を認めた場合、返金する事例もあるのだという。

店舗側からすれば、お通しは「注文した料理が出るまでの酒のつまみ」であり、「テーブルチャージ」の意味合いも含んだものというのが一般的な認識だ。

しかし、その金額は300~500円と料理1品と同等であるため、システムを理解していない外国人にしてみれば、「頼んでもいない料理になぜ料金を支払わねばならないのか!?」と、不満や憤りを覚えるのも当然だろう。英語のネット掲示板では「お通し」は「Compulsory Appetizers」、つまり「強制的な前菜」と翻訳され、たびたび非難の的となっている。

実のところ、そうした日本特有の「お通しシステム」には外国人はおろか、これまで当たり前のものと捉え享受してきた日本人からも非難の声が上がり始めている。2009年にYahoo!が行った意識調査(回答数:76,339票)によれば、「お通しは出して欲しい?」という質問に対し、「無料なら出して欲しい」が77%、「無料でもいらない」が17.3%と、実に94.3%が否定的な回答となった。

来店後、おしぼりと一緒に提供されるお通しは、居酒屋でのお馴染みの光景である。この日本の飲食店特有のシステムであり文化は、本当に必要ないものなのだろうか。

不満の理由は「強制感」「質の悪さ」「説明不足」

外国人観光客から「強制的な前菜」と非難される、居酒屋のお通し。システムの理解云々以前に、その不満は文化的な背景によるものも大きい。欧米ではビジネスをはじめ、ショッピングにレストランでの食事であれ、その売買は売り手と買い手双方の合意に基づく契約が基本となる。

つまり、料理の内容と価格が適正ならば納得(=合意)し、客は注文し、店は調理する(=契約)という認識であり、合意も契約もせぬまま問答無用で提供され、サービスと思いきや会計時に料金を払わされるお通しには納得できないという不満は、ある意味、当然の反応といっていいだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アルゼンチン、4カ月連続で財政黒字達成 経済相が見

ワールド

トランプ氏、AUKUSへの支持示唆 モリソン前豪首

ビジネス

マスク氏、初のインドネシア訪問へ スターリンク運用

ワールド

インド、4月のモノの貿易赤字は191億ドル 輸出減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 7

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中