コラム

中国は38分で配布完了!? コロナ給付金支払いに見る彼我の差

2020年06月19日(金)14時50分

なぜ正確に記録したはずのパスワードを入れても拒否されるのか。それはパスワードを手書きで申請するようになっていたことに原因がある。手書きされたパスワードを自治体職員がシステムに手で入力しており、その際に「o」と「0」、「I」と「1」など似た形の文字や数字を取り違えるケースが少なくなかったのである。

こうしてパスワードを忘れた人や入力しても拒否された人たちがパスワードの確認を求めて自治体の窓口に殺到し、運が悪ければ7時間も三密の状態で並ぶ状況となった。

今回の特別定額給付金の給付を急ぐためには、欠陥が多いオンライン申請を中止し、郵送申し込みに絞るのが正解だと思われる。だが、今後のことを考えると、この際マイナンバーと銀行口座を結び付けておき、これからはマイナンバーと本人確認書類か電子ハンコを出しさえすれば速やかに給付できるような態勢をとっておいたほうがいい。

その場合、世帯単位ではなく、個人単位でマイナンバーと口座とを登録しておくべきである。世帯構成は数年経てば変わってしまう可能性があるので、ある時点で世帯と口座とを結び付けておいても、数年後にはまた改めて情報を集める必要が生じる。それに対して、個人の銀行口座はそれほど頻繁には変わらないはずなので、いったん登録しておけばその情報はかなりの期間有効であろう。

日本には行政によって銀行口座を把握されるのが嫌だという人も少なくないようである。だが、日本はこれからさらに高齢化が進み、福祉の役割がますます大きくなる。行政が災害や病気や高齢で所得の減少した人に給付金を出す機会も多くなるはずである。効率的な福祉国家を実現するうえでマイナンバーによる個人識別と銀行口座の登録はやはり必要である。

参考文献
北京大学光華管理学院・螞蟻金服研究院『疫情下的消費重啓』2020年4月27日
程思煒「争議消費券」『財新』2020年5月18日
徐奇淵・張子旭「65億消費券:刺激還是紓困」『財新』2020年5月5日
月咏幻「申請10万日元疫情補貼,結果先被日本低技術折騰了一番」『観察者網』2020年5月22日
風間春香「プレミアム付商品券の経済効果」みずほインサイト、2015年6月24日
本稿作成にあたっては伊藤亜聖氏(東京大学社会科学研究所准教授)のご協力を得た。

20200623issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月23日号(6月16日発売)は「コロナ時代の個人情報」特集。各国で採用が進む「スマホで接触追跡・感染監視」システムの是非。第2波を防ぐため、プライバシーは諦めるべきなのか。コロナ危機はまだ終わっていない。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ジャクソンホール会議、8月22─24日に開催=米カ

ビジネス

米国株式市場=最高値更新、CPI受け利下げ期待高ま

ビジネス

米シスコ、5─7月期売上高見通し予想上回る AI支

ワールド

ニューカレドニアに非常事態宣言、暴動の死者4人に 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story