コラム

ウィキリークス創設者アサンジは「真実の追求者」か「目立ちたがり屋」か

2019年04月15日(月)15時00分

リーク者は、2009年、イラクに情報分析官として派遣されたブラッドリー・マニング上等兵(現在、トランスジェンダーとしてチェルシー・マニングに改名)だ。2010年5月、機密情報をウィキリークスに流した容疑者として逮捕され、2013年、禁錮35年の刑を言い渡された。

2017年1月、オバマ大統領(当時)が退任直前に恩赦を与え、刑期が大幅に縮小されたことで、同年5月、釈放された。

マニングは3年以上刑務所に収容され、それ以前の拘束期間も含めると7年間不自由な境遇で生きてきたが、今年3月8日、ウィキリークスに対する大陪審の調査で、証言を拒否したことを法廷侮辱罪に問われ、再び収監状態となっている。

民主党ハッキング、ロシアとの関りは?

リベラル系メディアの中で、ウィキリークスやアサンジに対する支持が大きく揺らいだのが、2016年の米大統領選での、民主党のハッキング事件だ。

同年7月22日、ヒラリー・クリントン元国務長官を民主党候補に指名する共和党大会が開催される数日前、ウィキリークスは民主党全国委員会(DNC)幹部のメール約2万点を公開した。幹部らがクリントンの対抗相手バーニー・サンダース上院議員の候補就任を妨げる行為を行っていたことを暴露したのだ。ワッサーマン・シュルツ委員長は責任を取って辞任した。

10月、ウィキリークスはクリントン候補の選対本部長ジョン・ポデスタの電子メールを公表し、クリントンに不利になるような内容(シリアに隠密介入、巨額の講演料の取得など)を表に出した。

のちの米国側の調査で、ロシアのハッカー集団「グシファー2.0」からウィキリークスが情報を受け取っていたことが判明している。

以前にメガリーク報道を主導していた、米ニューヨーク・タイムズのミッシェル・ゴールドバーグ記者は、「アサンジは、民主党委員会で働いていた男性(2016年4月に強盗に殺害された)が情報源となったという説を流布させていた。情報源が別であることを知っていたのに」と指摘する(11日付)。

なぜウィキリークスがクリントン候補に不利になるような情報を公開したのかは不明だが、クリントンはメガリーク実施当時の政府の一員であり、彼女への反発があったのかもしれない。結果的にトランプ共和党候補(現大統領)にとっては好都合となり、大統領選時、トランプは「ウィキリークスを愛している」と何度も表明している(今年4月時点では、「ウィキリークスについては、知らない」と発言)。

アサンジは、トランプ政権になったら、身柄引き渡し要求を取り下げてもらうなどの扱いを期待していたのかもしれない。

ウィキリークスによる民主党及びクリントン候補に不利になるような一連のメールの公開を、私たちは、どのように解釈したらいいのだろう?「ロシアと手を結んだ」のであれば、どの程度まで親しい関係にあり、何が目的だったのか。疑問は解明されていない。

3月末、大統領選におけるロシアとトランプ陣営のかかわりを調査してきたモラー特別捜査官による調査報告書は、ほんの4ページの概要のみが公開された。トランプ陣営とロシアとの「共謀は認められない」としたものの、捜査機関に偽証したとされるトランプ陣営の元幹部や民主党へのハッキングに関わったロシア当局者など34人が訴追された。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

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