コラム

「右肩下がり」岸田政権の命運を左右する分岐点

2023年01月25日(水)18時00分

岸田首相は難局を脱することができるか?(2023年1月23日)

<通常国会が開会した。「聞く力」を封印し、「歴史的使命」を打ち出した強気の岸田首相だが、支持率は今も30%前後に低迷している。統一教会問題、防衛増税、党内の反旗......数々の難題を乗り越えた先には、春の統一地方選、特に大阪府知事選という大きなハードルが待つ>

1月23日に通常国会が始まった。6月21日まで150日間の長丁場は、低支持率に喘ぐ岸田文雄首相には正念場となるであろう。政治の流れは早い。1年前の通常国会を振り返ってみると、岸田政権の支持率は当時60%前後もあった。それが去年の後半以降、旧統一教会問題や国葬実施、閣僚不祥事、防衛増税などさまざまな問題が噴出して政権支持率は瞬く間に半減し、30%前後まで落ち込んだ。岸田首相にとってこの通常国会は「退陣に追い込まれる自沈の150日間」となるか、それとも「反転攻勢をかけて長期政権の礎を築く150日間」となるだろうか――。

23日の施政方針演説にマスクを外して臨んだ岸田首相は、気力が充実している様子に見えた。「明治維新から77年後に大戦の終戦があり、くしくもそれから更に77年が経ったのが今だ」として、日本が「歴史の分岐点」に立っていることを強調し、「私に課せられた歴史的な使命を果たすために、全身全霊を尽くします」という言葉で演説を締めくくった。

「歴史的な使命」という言葉が首相の施政方針演説に登場するのは、2020年1月20日に安倍晋三首相(当時)が憲法改正の文脈で用いて以来だろう。「聞く力」を強調した昨年の施政方針演説から打って変わって、「私に課せられた歴史的使命」というフレーズを言い切ったところに、岸田流の「強気」の姿勢が垣間見られる。

施政方針演説で岸田首相は、5年間で43兆円の防衛予算確保、反撃能力(敵基地攻撃能力)保有などの「防衛力の抜本的強化」や、物価高対策、構造的賃上げ、GX・DX・イノベーション・スタートアップへの投資などの「新しい資本主義」、持続的で包摂的な「新しい資本主義」を次の段階に進めるものとしての「こども・子育て政策」といった政策を力強く語った。

しかし、「増税」という言葉は一切使わず、また経済安全保障政策で焦点となっている「セキュリティ・クリアランス(機密情報を扱う職員の適格性確認制度)」「人権デューデリジェンス(企業サプライチェーンにおける人権侵害リスクの精査)」「ウイグル人権侵害」には言及しなかった。閣僚が相次いで辞任に追い込まれた「政治とカネ」の問題に対する言及もわずかで、「信頼こそが、政治の一番大切な基盤であると考えてきた1人の政治家としてざんきに耐えない。再び起きないように、改革にも取り組んでいく」と述べはしたが、具体策には乏しい。これが岸田政権の優先順位ということなのだろう。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独プーマ、第1四半期は売上高が予想と一致 年内の受

ビジネス

外貨準備高、4月末は1兆2789億ドル 「外貨証券

ワールド

米下院、ジョンソン議長の解任動議却下 共和党保守強

ビジネス

米マイクロソフト、ナイジェリアの開発センター閉鎖・
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 10

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story